
クラウドのそれよりも、もっともっと薄い青はどこか冷たくも感じさせた。そのせいなのか、その瞳に囚われた瞬間、動けなくなった。文字通り、本当に…目を逸らすことすら出来なくなる。
クラウドが剣を振るっている音を少し遠くに感じながら、視線の先にいる印象的な赤がわずかに身じろぎしたことにあたしがハッとした次の瞬間には、もうその人はすぐ目の前に立っていた。あの高さからここまで一気に飛び降りてきたんだ、と理解するのに少し時間を要したように思う。本当に、クラウドといい、彼といい、一体どんな身体能力をしているのか…
とっさに後ずさろうとするあたしに対して、その人はさらに1歩つめてくる。至近距離から顔をじっと覗き込まれるのは正直居心地が悪い。
「お前、その目…」
「…え?」
「こりゃ、とんだ大発見だぞ、と」
その人は、確かにそう言った。驚いていた表情にみるみる笑みが浮かぶ彼の様子をすぐ近くで見ているあたしの体は、やっぱり言うことを聞いてくれない。頭の中では警鐘が鳴り響いているのに…理由なんてなく、直感で危険だ、と感じているのに…
ニヤリ、と笑ったその男性は手にしているロッドで自分の肩をポン、ポン、と叩きながら姿勢を正した。彼の顔が離れていったことで、思わずホッとするあたしだけど視線は逸らせないまま。その時、エアリスがあたしの手をぎゅっと握り締めてくれるのがわかった。柔らかなイメージの彼女だけど、臆することなく目の前の男性を見上げている。
「…名前に何の用?」
「へぇ?可愛い名前」
「答えになってない」
「まぁ、そう言うなよ、と。…あ〜、聞いてた年齢よりもちょっと若いか?」
何を言っているのかわからないまま呆然としていると、「ま、いいか」と言った目の前の男性の笑みが深くなる。そう思った次の瞬間には、あたしの手からエアリスの温もりは消え去っていて、代わりに感じたのは淡い香水の香り。気が付いた時には、何故かあたしはその男性に抱き寄せられていた。エアリスがクラウドを呼ぶ声が聞こえる。
「っ……」
振り向いたクラウドと目が合った。驚きに見開かれた瞳にみるみる怒りの色が見える。こんなクラウドの表情を見るのは初めてで…とっさにシャツが大きく開かれた男性の胸元を押し返してみるものの、かえって抱き寄せる腕に力を込められただけだった。
一体、どうして自分がこんな状況に陥っているのか…全く理解ができない。
「名前を離せ」
「あんた、こいつの何?」
「………………」
「答えられねぇんだ。じゃあ、俺が貰って行ってもいいよなぁ?」
「ダメだ」
空気が、ピリピリする。いつの間にか兵士たちはクラウドに倒されていたようで、彼の後ろには何人もの人が倒れ、うめき声を上げている。
「クラウドッ…」
力の限り、男性の胸を押して、クラウドに向かって走り出そうとした。けれど、そんな努力も虚しく今度はお腹の辺りに腕が回ってきて後ろからグイッと引き寄せられてしまった。こんな細身の男性のどこに一体こんな力があるのか…たった片腕で制されてしまう自分自身の非力さが情けない…
そんな風に思っていると、男性の低い声が後ろから、直接耳へと注ぎ込まれる。
「そんな嫌がンなよ…レノさんだって、さすがに傷付くぞ、と」
「…ひぅ…っ…」
「お、イイ声」
耳元の声に固まっていると、そのままうなじに唇の感触。驚きとくすぐったさに思わず声が漏れてしまったあたしは慌てて両手で口を塞ぐ。自分で“レノ”と言ったその男性はそんな様子が面白かったのか、すぐ背後でくっくっと声を殺して笑っているようだ。「何するの!?」とさすがに非難しようとしたあたしの声は、残念ながら届かなかった。
クラウドが、レノに斬りかかったから。今しかない、と思って渾身の力を込めて彼から離れると、レノは小さな舌打ちと共にヒラリとクラウドの剣を交わし、距離を取った。
思わずその場に座り込んでしまいそうになるあたしの視界が、クラウドの背中でいっぱいになる。
クラウドが、まるであたしを後ろに隠すかのように前に立ちはだかってくれていたのだ。その背中を見たら、今まで張り詰めていた気持ちが切れてしまいそうだった。
「き、さまっ…」
「お〜、こわ」
「アンタも、何おかしな声出してんだ」
「っ、そんなこと言ったって…!」
まさか、こんな状況下でうなじにキスをされるとは思いもしなかったのだから、驚くあたしの気持ちも少しでいいからわかってほしい…怒っているらしいクラウドの様子には、何とかそう心の中で反論するのが精一杯だ。
剣とロッドが交わる音が再び教会の中に響き渡る中、エアリスがあたしの元に駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫?」と優しく声と共に頭を撫でられて、涙が溢れそうになる。
「エアリスッ…あいつ、色々危ないっ…!!」
どこにいても目立つ赤い髪をビシッと指差しながらそう言うと、「うんうん、そうだね」とエアリスが同意してくれて…それだけで、何だか救われるような気がした。今、はっきりとわかったことは、エアリスの癒しパワーはものすごいっていうことと、レノは危険人物だっていうことです……はい……
