30:お花の行方


  

エアリスの言葉通り、確かに裏道はモンスターとの遭遇が多かった。その上、今まで以上に積み上げられた瓦礫をいくつも超えて…一般人のあたしにとっては、言葉にするのもしんどいと感じさせる…そんな道だった。
幾度もモンスターとの遭遇を経験するも、クラウドは言っていた通り、その都度あたしを守ってくれて…結局バングルに納められたマテリアを使用する事態にもならなかった。何度も悲鳴を上げてしまったことは、本当に申し訳ないと思っています、はい。
そして、少しずつ周りが開けて来て、どこからか人の話し声も聞こえるようになって来た頃、エアリスがあたしの顔を覗き込むようにして笑顔を見せる。

「お疲れ様、名前。ここまで来れば、もう安心」

そんなエアリスの穏やかな言葉に思わず安堵の息を吐いた。

「良かったぁ…」
「…タークスを忘れるな」
「あ…」
「う…」
「どこから来るかわからない。気は抜くな」

ちょっぴり安心して気が抜けたところでクラウドのクールな一言。忘れていた訳ではないけど、確かに今一瞬、無事スラムに辿り着いた安心感が優ってしまっていた…まだ、安心してはいけないんだ。
あれ程の道のりに加えてモンスターがボンボン出てくる険しい行程…それなのに、クラウドにさえこっちの方がマシ、と言わせるタークスとは一体何なのか…そんなことを考えていたら一瞬あの赤毛の男の不敵な笑みが頭に浮かんで、慌てて掻き消した。
伍番街スラムに入ってすぐの広場には大きなテレビ画面のようなものがあって、街の人たちみんながその放送に目を向けていた。伍番魔晄炉の爆破について報道されている。画面の端にはよく目にするあの赤いマーク…また、“神羅”だ。理由はわからないけど、やはりあたしはこのマークが“嫌い”らしい…何故かはわからないまま、ただただ嫌悪すら感じるように思う。思わずふい、と画面から目を背けるとちょうどエアリスの「クラウド、名前、行こ」という声が聞こえて、彼女の後を追った。
同じスラムでも伍番街と七番街では何だか雰囲気が違う。なんていうか、こっちの方があちこちに草が生えていて、無機質な風景の中に彩る緑が生き生きしているように見えた。
お店の店主らしき人に、男の子、リーフハウスという孤児院に生活しているという子供達、エアリスに声をかけて来る人たちがたくさんいて…

「エアリス、人気者だね」
「うん、いつも、元気もらってる。でもね…」
「ん?」
「名前みたいに年齢が近い女の子の友達、あまりいないから…お話できて私、すごく嬉しいんだ」

2人並んで歩きながら、そんな風に話したエアリスが笑いかけて来る。その笑顔が天使のそれそのもので…言葉の内容が光栄すぎて…一瞬黙ってエアリスを見つめることしか出来なかったあたしだけど、慌ててお礼を口にした。
まさか、そんな風に言ってくれるなんて思わなかったから…
その後、リーフハウスでお花の依頼を受けたエアリスは、クラウドとあたしを連れて家へと向かう。家、と言う割にスラムからは遠ざかっていくようで、少し不思議に思いながらも後を追った。その道すがら、エアリスがふと思い出したかのように声をかけて来る。

「クラウドは、お花、好き?」
「考えたことがない」
「ふ〜ん、花屋にそれ、言うかな」
「嘘はつけない」
「名前は、お花、好きだよね?」
「うん、あたしは大好き」
「やっぱり!お花を見る名前の瞳、すごく優しいもんね」

そうかな、と少し照れくさくなるあたしに、エアリスはすぐわかったよ、と笑いかけて来る。そして綺麗な緑色の瞳は、また後ろを歩くクラウドへと向けられて…

「この前あげたお花は、どうしたの?」
「あれは…」
「誰かに、あげた?」
「…そうだな」
「えっ、誰に誰に?」

興味津々といった様子のエアリスの視線が何故かあたしに向けられて、ドキリとした。こっちの世界でお花なんて、この伍番街に来るまで、ほとんど見かけなかった。あたしの記憶にあるお花も、たったの1輪だけ…

「もしかして、名前?」
「ううん、あたしじゃないよ」
「え〜、じゃあ、誰?」

エアリスの更なる追求から逃れるかのようにクラウドは「覚えてない」とだけ早口で返答している。「ほんとかなぁ?」と到底納得のいかない様子のエアリスの隣で、あたしは小さく息を吐いていた。一気に入って来る情報が多すぎて、色々混乱してしまいそう…記憶の中に甦るのは、カウンターの奥で1輪挿しに飾られていた黄色いお花、それだけで大切にされていることがよくわかる。良くしてくれたティファのことが思い出された…無事脱出できたのかな…大丈夫かな…

「この道を抜けたら、わたしの家。着いたらお母さん、紹介するね」

そう言いながら、エアリスがわずかに小走りで前に進んでいく。「ありがとう」と返事をした時、それまで後ろを歩いていたクラウドがふと隣に並んで来て…

「エアリスを送り届けたら、七番街スラムまで戻るつもりだ」
「え?」
「名前、気にしてるだろ…ティファのこと」

確かに、その通りだけど…あたしはこの場でティファのことは何も言ってない。それなのに、どうしてわかったのか…そんな疑問でいっぱいになる。キョトンとしながら隣に並ぶクラウドを見上げていると、彼がわずかに笑った…気がした。

「アンタの顔を見ていればわかる」
「…っ…」

思いっきり図星だが、いつから顔を見られていたのか、とか、そこまで顔に出ていたのか、とか、色々考えると恥ずかしすぎる。言葉を失うあたしに「ふ、」と笑って見せたクラウド…その手がわずかに持ち上げられて、グローブ越しにポンポン、と頭を撫でられる。

「ティファなら大丈夫だ」
「…う…うん…」

わかった、と頷いて、先を歩く形になったクラウドの後を追いかける。その先に見えて来た景色には感嘆するばかり…今まで見て来たどこよりも緑に溢れている。たくさんの花…豊かな水…

「あれが、わたしの家」
「すごいな」
「うん…すごい、ここだけ別世界みたい」
「へへっ」

ようやく家に着いたからか、エアリスは嬉しそうだった。ドキドキ、とうるさく鼓動している心臓には気付かないふりをしながら、微笑むエアリスにあたしも笑顔を返した。

  

ラピスラズリ