
エアリスの家でお母さんにご挨拶をした。予定ではそのまま七番街に戻るつもりだったけど、送ってくれるというエアリスと、そうするなら明朝出発した方がいい、というお母さんの提案で今日は泊めていただくことになった。
確かに、このまま送ってもらったら帰りのエアリスのことが気掛かりで仕方ない…帰りは暗くなってしまうだろうから。それに…
「ね、いいでしょ名前?たくさんお話、できるね」
なんてエアリスに言われてしまったら、断るなんて無理だ。「いいよね?クラウド」と笑顔を向けられたクラウドでさえ、渋々了承していたんだから、やはり彼女の力はすごい…と思う。そして今、あたしは…
「わっ、わっ…!」
突進してくるモンスターに、またしても短い悲鳴をあげていた。もちろんモンスターの攻撃が届く前にクラウドが助けてくれるから毎度事無きを得ているんだけど、はっきり言って心臓には悪すぎる…ものすごく。そんなあたしに、クラウドは剣を納めながら小さくため息をついた。
「頼むから動き回るな」
「だって、モンスターみんなあたしの方に来るんだもん…」
「前に言ったろ。この手のモンスターは」
「弱い者から攻撃する、でしょ?わかってるよ…」
前に言っていたクラウドの言葉を思い出し、思わず肩を落とす。こんなにモンスターが多いんじゃ、あたしはどう見ても足手纏いだし、やっぱり子供達と待っていた方が良かったんじゃないか、とすら思えて来る。まぁ、それはクラウドにすでに却下されていて、今に至っている訳だけど…
クラウドの言う“黒服の男”っていうのがどんな人なのか、あたしは知らない。ただ、役に立たないことも承知の上であたしのお留守番を良しとしなかったのだから、それ程彼が警戒している証拠…ということなのだろう。
モンスターという名の巨大ネズミの突撃は死ぬほど怖いけど、こうなった今、もうあたしはクラウドのことを信じるしかない。
「…わかった。逃げ回らないように頑張る」
「そうしてくれ。こう動き回られると、アンタまで斬りそうだ」
「…絶対、動きません」
サラリと、とんでもないことを言われて背筋が凍った。そんなあたしたちを見てエアリスが「ふふっ、2人、仲良いね」と笑う声が聞こえて来て、苦笑いを浮かべるしかない。
足場は比較的整備されている。迷い込んでしまったという子供達、危険な目に合ってないといいけど…そんな風に祈りながら、道を進んだ。その時、エアリスが「あそこ!」と指差した先には子供達の前に立ちはだかるモンスター。
「刺激しない方がいい」
そのクラウドの言葉に小さく頷いて、はやる気持ちを抑えながら、先を急ぐ。子供達のすぐ近くにも、モンスターが巣食っていた。「エアリス!」「お姉ちゃん!」という子供達の怯えた声が聞こえて来て、あたしは戦闘が始まると同時に子供達の近くへと駆け寄った。
「今、助けるからね!もう大丈夫」
こうして子供達とモンスターの間にいれば、最悪の状況は防げるかもしれない…と咄嗟に思った。戦えないあたしが出来ることといえば、いざという時に盾になることと、子供達を励まし続けることくらいだから。
見れば、子供達が乗っている島の部分も崩れて沈みかけた廃材が偶然、形を成しているようで、ものすごく不安定だ。下手をすれば沈んでしまうんじゃないか、とすら思えて来る。その上、前にはモンスター…余程怖かっただろうな、と思い胸が締め付けられた。
「クラウドもエアリスも、すごく強いから…モンスターなんて、あっという間に倒しちゃうからね。あともう少し、頑張ろう」
「お姉ちゃん…」
その時、後ろから断末魔のようなものが聞こえて来て…振り向くと最後のモンスターが倒れた所のようだった。
エアリスとクラウドが駆け寄って来る。そんな2人のことを止めたのは子供達だった。「あちこち崩れやすくなっている」という言葉通りに、エアリスの足元の木材が崩れて、あたしも慌てて後ろに下がる。
「俺が行く」
クラウドのそんな言葉が聞こえて来たのは、その時だった。一体、どうやって…そう思うのも束の間、まさかのジャンプ…それも、助走なしのひとっ飛び…それで、子供達のところまで危なげもなく届くって、本当にどんな運動神経しているんだ、とあたしはまさに開いた口が塞がらない状態。
全然驚いていないエアリスにも、びっくりだ。そんなあたしの目の前で、クラウドは子供達を抱きかかえ、無事に戻って来た。
「ありがと」
「かっこいい」
安心したようにそう口にする子供達の言葉に、クラウドは一瞬照れたような表情を見せた。わずかに視線を逸らした先にいたあたしと今度は目が合って…
「かっこいい、だって。良かったね」
「…からかうな」
「ふふっ、でもホント、かっこよかったよ」
「な…っ……」
子供達を助けたクラウドは、本当にかっこよかった。だから、そのままを伝えたのに、何故かクラウドは言葉に詰まり…しかも、そのまま盛大に顔を背けてしまった。何なんだ、一体…「さ、戻ろっか」というエアリスの言葉に頷いて、その場を後にする。
また、あのモンスターの巣窟と化している道を戻るのか…と肩を落としたけれど、帰り道モンスターはほんのわずかしか出なかった。おそらく、クラウドとエアリスの活躍で、残っていたモンスターたちも身を隠しているか、逃げていったか…どちらにしても、モンスターの突撃が少ないことはありがたかった。子供達を連れている今は、尚更…
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
ふと手に温かさを感じて視線を落とすと、女の子があたしの指をちょいちょい、と引いているのが目に入る。
「なに?」と笑顔を向けると、女の子もにっこりと微笑んでくれて…
「エアリスと、お姉ちゃん、どっちがクラウドの恋人なの?」
「…えっ?」
無邪気な質問に驚いて顔を上げる。エアリスは穏やかに微笑んでいて、クラウドは…
「……………」
絶句しているようだった。
「ねぇねぇ、どっちなの〜?」
「どっちかというと、名前が近い…かな」
言い淀んでいるあたしに代わり、返答したのはエアリスだった。思わず、そんなことないよ、と言おうとしたあたしだけど、それを見越したかのように「ね、名前」と同意を求めるように名前を呼ばれて…それ以上何も言えなくなってしまった。チラリ、とクラウドに目を向けると一瞬だけ視線が合った後、思いっきり逸らされた。
…エアリスにそんなこと言われたら…なんか、意識しちゃうじゃない…
何だか少し、モヤモヤした気持ちになりながら、女の子と手を繋ぎ、道を進むと無事子供達の秘密基地へと戻って来ることができて、安堵の息を吐いた。
エアリスに助けを求めたムギ、という少年にもお礼を言われて、この場を後にしようとした…その時だった。
呻き声と、子供達の悲鳴。
「えっ…」
慌てて振り向くと、ゆっくりと歩んで来るボロボロの黒いマントのようなものを着た…男。
…待って…今、どこから、現れて…?
「下がってろ」
「…クラウド」
クラウドが子供達とあたしを背中に、男の前へと立ちはだかった次の瞬間、その黒服の男はその場に倒れこんでしまう。駆け寄ったエアリスに続いて、クラウドとあたしもその人物の元へと急いだけど、今も呻き声が聞こえるのみ。顔色も悪い。
クラウドが「似た症状の男が、隣に住んでいる」と説明しているのが聞こえて来る。その時だった。クラウドが苦痛に顔を歪めながら、頭を押さえている。その様子は前にも見たことがあって…声をかけようとしたけど…
「……っ……」
突然、倒れていたはずの男が立ち上がり、言葉を失う。顔色の悪い男性は消え失せていて、そこにいたのは、何故か…銀色の長い髪をした、恐ろしいと思えるほどに綺麗な男性…だった。
クラウドに何かを話しかけている。その男がゆっくりと振り返り、向けられたのは…
「お前は、邪魔だ」
はっきりとした、敵意だった。
