
「…あれ?どうしたの?」
「お〜、名前」
「久し振り。ねぇ、その人…」
「あぁ、一般兵のクラウド。友達なんだ」
「クラス1stの貴方に一般兵のお友達?…珍しいね」
「そっか?こいつとは、妙に気が合うんだよな」
……これ、なに……?
「で、その一般兵くんは一体どうしたの?」
「こいつ、乗り物弱いんだ。すぐ具合悪くなっちまって」
「それは…お気の毒」
「そういう名前は、また抜け出して来たのか?」
「まぁね」
「今頃研究所は大騒ぎだな」
「あそこ、好きじゃないの」
「まぁ、わからなくもないけど」
…貴方は、誰…?
呼んでいるのは、あたしの名前…?
「あ、そうだ…これ、その子に貸してあげる」
「何だ、それ?マテリア?そんな色、初めて見る」
「でしょ?あたしのお守り。何にも起こらない変なマテリアなんだけど、持ってると気分、楽になるんだ」
「へぇ…名前が言うなら本当に効果ありそうだな。俺が参った時も貸してくれよ」
「いつも元気いっぱいの子犬くんには必要ないでしょ?」
「ひっで〜」
「ふふっ…え、と、クラウド、だっけ?はい、これ、握ってみて。きっと、気分楽になるから」
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目が覚めると、あたしは部屋の床に転がっていた。慌てて体を起こし、辺りを見回してみるけど、何度見てもここはあたしの部屋…だ。戻って、きた…??心臓がうるさいくらいに鼓動して、思考がうまく纏まらない。
「…う…ん…」
今のは、夢…だったのだろうか。その割には、気持ちが悪いと感じる程にリアルな、はっきりした夢だった。
あたしの名前を呼ぶ黒髪の男性は知らない人…だけど、すごく優しく微笑んでいて…そうだ、クラウドの服装にそっくりだった…気がする。そして、クラウドは…すごく具合が悪そうに蒼白い顔をしていたけど、チラリと見ただけでも今の彼とは違うとわかった。随分、若かった…ように見えた。男性、と表現するよりも少年、と言った方がしっくり来るくらい。そんな彼らとまるで知り合いかのように言葉を交わす自分…訳が、わからない。
取り留めのない考えがいくつも頭に浮かんでは消えていく中、あたしはフルフルと頭を振った。
夢かもしれない出来事を考えるよりも、まず確認しなければならないことがある。改めて部屋の中を見渡しても、ここは間違いなくあたしの部屋で、いるのはあたし1人だけ。
「……………」
はっきりと覚えている。突然現れた銀髪の背の高い男性に、はっきりとした敵意を向けられた。逃げなきゃ、と頭では思うのに、体はその場に縫い付けられてしまったかのように動かなくて…
ゆっくりと男の剣があたしに向けられたのがわかった。クラウドが、何かを叫んでいるのが聞こえて…そこからの記憶がプツリと途切れている。そして気がつくと、何故か自分の部屋に転がっているのだから、もう訳がわからない。
「…あたし、まさか、死んじゃった…?」
あの男に、あのまま斬られた…のだろうか。そっと自身の胸へと手を当ててみるが、どう考えてもその最悪のシナリオが訪れたとは思えなかった。圧倒的な危機に、あたしだけこっちの世界に戻って来てしまったのだろうか…
そう考えるのも、あまりにもタイミングが良すぎる気がするけど…今は、そうとしか思えない。
「クラウドとエアリス…大丈夫、かな…」
あの銀髪の男が何者なのかはわからない。会ったこともないのに、何故いきなり敵意を向けられたのかもわからない。でも、只者でないことだけは確かだ。自分だけあの危機を回避してしまったと思うと、当然2人のことを気掛かりに思う。だが、その時ハッとした。鮮明に記憶が蘇って来る。
以前、彼に伝えようとしていたこと…クラウドの世界が、こっちの世界ではゲームの中の世界かもしれないこと。友達にファイナルファンタジー7の話を聞かされたあの時はまだ知らなかった“エアリス”という存在。実際に、向こうの世界で彼女に出会ったじゃないか。友達の言葉通りだ。
あたしは思わず頭を抱えた。こんな大事なこと、何故綺麗さっぱり忘れてしまっていたのか。
そして、それと同時にある事実に気が付き、目の前が真っ白になる感覚に陥った。
「…元通り、だ…」
クラウドとあたし。理由はどうあれ、今の状況だけを見ればそれぞれがあるべき場所に存在していることになる。こんな不思議な出来事に身を飲まれる前の、至って普通だった日常に戻っているのだ。
嫌な予感が全身を駆け抜けた。まさか…もう、彼には会えないのだろうか…
そう思った瞬間、気がつくと目の前が徐々に霞んで、見えなくなる。クラウドにもう会えないかもしれない…それは、どんなモンスターに突撃されるよりも、銀髪の男に剣を向けられるよりも、ずっとずっと恐ろしいことだと、あたしは…今頃気がついた。
