33:彼女の行き先


  

セフィロスが消えた。
いや、消えた…という表現はおかしいかもしれない。
気が付くと、セフィロスだったはずのその姿は古びた黒マントを纏った男に戻っていた。
この場にいたエアリスの反応からも、セフィロスの姿に見えていたのは俺だけだったのかもしれない…と疑念を持つ。
だが、それとは反対にはっきりしていたこともある。
…名前が、消えた。

「あれ…?名前は?」

少しフラつくようにしながら、子供達の秘密基地を後にする黒マントの男の後ろ姿を見ているとエアリスが話しかけてきた。

「…わからない」

一言そう返すとエアリスは「おかしいなぁ…」と言いながら、辺りを見回す。
彼女には言えないが俺には、この近くにはいないだろう、という確信にも近い思いがあった。
セフィロスが、名前に敵意を向けたのはわかった。その場で動けなくなっているらしい名前に「逃げろ」と思わず叫んだ。その瞬間、光が名前を包んでいた。今までの状況から考えても、名前は今、向こうの世界にいる可能性が高い…そう思った。
今までも世界を跨ぐタイミングはまるで読めなかったし、今回もそうだ。だが、今回はそのタイミングに救われた、ということだろう。思えば、目の前で名前だけが世界を渡るのは、これが初めてだ。

「行こう、クラウド」
「え?」
「名前、探さなきゃ」
「…そうだな」

秘密基地を後にするエアリスの後に続く。名前の秘密を知らないエアリスに下手なことは言えない。それに、以前世界を渡る際に俺と離れ、七番街スラムの片隅を名前が1人彷徨っていたことも思い出され、どちらにしてもこの場にじっとしているのは得策ではないだろうと思った。2つの世界の時間の進み方が同じでないことはすでにわかっている。
もしかしたら、向こうの世界を経てまた戻ってきた名前がその辺にいることだって、有り得ないことじゃない。

「……………」

もしそうだとしたら、早く見付けてやりたい。名前は1人にしておくと、危なっかしいから。
無言のまま足を進める。スラムの中を見て回っているうちに、何でも屋としての依頼も何件か受けた。今はそれどころじゃない、という気持ちももちろんあるが、今の状況を考えるとどこで名前に辿り着く糸口が見つかるともわからない。そうは思っても、逸る気持ちを抑えるのは想像以上に大変だった。
戦えない名前がこの場にいないのだから、戦闘になっても余計な心配はしなくていいはずなのに…何故、こうも落ち着かないのか。自分の気持ちが、まるでわからなかった。

「ねぇ、クラウド」
「何だ?」

そんな時、改まったようにエアリスから声をかけられる。振り返ると、思っていた以上に彼女との距離が近くて、少し驚いた。深い緑がじっと俺の瞳を覗き込んでくる。

「名前のこと、なんだけど」
「……?名前がどうかしたか?」
「うん」

エアリスのことをじっと見返しながら、珍しい、と思った。どちらかと言えば、はっきりとした物言いだった印象のエアリスが、何かを言い淀んでいるような…

「エアリス?」

視線を合わせ先を促すが、彼女がその先を口にすることはなかった。

「…ごめん。やっぱり、何でもない」
「気になる言い方だな」
「名前のことだから、余計に?」
「っ…別に」

そんなんじゃない、と言おうとした俺を見て、エアリスが笑顔を向けてくる。

「もう少し、考えてみる」
「何を…」
「色々。さ、早く名前を探そう」

何故か、胸がモヤモヤする。その元凶は間違いなくエアリスの言葉だ。今までは気にならなかったようなことが、妙に気にかかる…そんなことを思ったところで、この話はもう終わりだ、と言わんばかりに先を歩き始めているエアリスに、これ以上の追求は無意味だろう。
とにかく、今は名前を探しながら先に進むしかない。伍番街スラムを依頼をこなしながらあちこち歩くが、名前の手掛かりはどこにもなかった。そろそろ、一度家に戻ろう、と言うエアリスの言葉に従い彼女の自宅へと向かう。その途中、ずっと警戒していた奴が遂に現れた。

「エアリス。これが新しい友達か」

…タークスだ。

「新しいって人聞きが悪い」
「なるほど…魔こうの目だ。レノをやったのはこいつか」
「俺だったらどうする」

相手から滲み出る敵意を感じながら、タークスの前に進み出る。

「事実確認。上長に報告」
「……………」
「…黄金目の女は、一緒じゃないのか?」

落ち着き払った相手から飛び出した、聞き捨てならない一言に思わず眉を寄せていた。「だったら何だ」とだけ返答するも、タークスは何も言わないまま柵を開け、広場に入っていく。この後の展開なんて、火を見るよりも明らかだ。
無言のまま後に続くと、タークスの携帯が鳴った。少し距離を開け、前を歩いていたタークスが携帯を耳に当てながら振り返る。

「ああ…残念だったな。手土産は無しだ」

その言葉に不快しか湧いてこない俺は、そのまま剣を構えた。

  

ラピスラズリ