35:推薦状を求めた先で…


  


無法地帯だという六番街スラムを避けるように、エアリスのオススメだという道無き道を進む。エアリスにとっても想定外だったらしいが、崩落した道を何とか抜け、少し開けた公園のような場所に着いた。
公園の奥には巨大な扉が見えて、その向こうが七番街スラムになるらしい。今は固く閉ざされている扉にこれは開くのか?と不安を覚えたが、ここにもエアリスの抜け道があるらしい。もうここまで来れば、驚きはとっくに通り越している。素直に礼を言おうとした時、目の前で固く閉ざされていた扉がゆっくりと開いて…進むチョコボ車に乗ったティファの姿に思わずその場を駆け出していた。



「とにかく、代理人のところに行ってみよう」

六番街スラムに入りあちこち歩き回っているが、エアリスは疲れた様子も見せずにそう言った。
わざわざ避けた六番街スラムに結局戻ってきたのは、ティファ救出のためだ。ティファの強さには、俺も絶対の信頼を置いているが、エアリスに言わせるとこの場は「ティファが最優先」らしい。チョコボ車に乗ってコルネオという男の元へ向かったティファからは大きな危機感は伝わってこなかったが、長年伍番街スラムで生活しているエアリスの言葉を無視することは、できなかった。
ティファの居場所、コルネオの居場所を見つけ出し、助ける。そのためにエアリスと2人、六番街スラムの中を隅々まで歩き情報を集めているが、俺にとっても如何わしい、と感じられる街並みだ…女性のエアリスにとって、居心地は決して良くないだろう。

「大丈夫か?」
「うん、平気」

気にかかり、声をかけるとエアリスは笑顔で頷いた。街を歩き情報を集めた結果、コルネオの館には男は入れないことがわかった。しかも、強行突破も得策ではないらしい。今はオーディションとやらが行われる前のようで、その中に潜り込むのが一番良い潜入方法ではあるが、その役目を買って出たエアリスに賛成を出来ないまま、俺は半ば押し切られる形で代理人を探していた。ティファは助けたいが、だからと言ってエアリスを危険な目に合わせる訳にはいかない。だが、他に方法があるのか、と言われてしまうと何もない現状では反対もできない。そんな八方塞がりな状況だ。

「大丈夫、何とかなるよ」
「でも…」
「ティファ、助けてあげないと」
「それは、そうだが」

エアリスの言葉に小さく頷く。まずは代理人の推薦状が必要なのだが、ティファを推薦したらしいサムにはあっさりと断られ、アニヤンに直接会うには数年の予約がいるらしい。残るはマダム・マムという人物だけとなっていた。
これがダメなら、やはり他の方法を考えよう。むしろ、その方がいいかもしれない…そんな風に思いながら、マダム・マムの店へと向かった。さっき閉まっていたはずの店の扉はあっさりと開き、中にいたのは煌びやかな服装で着飾った女だった。

「いらっしゃいませ。お二人様ですね。どうぞこちらに」
「……………」
「本日はどういった、揉みにいたしましょう?」
「もみ?」
「あら、ご新規さんでしたか」

店員の女は愛想よく、この店の説明を始めた。どうやらここは手のマッサージをする店…らしい。
だが、俺たちが客ではなく、コルネオへの推薦を希望して訪れたと知るや否や、女の態度がガラリと変わった。なかなかの迫力で迫ってきたかと思えば、勝手なことを言うな、まずは客として揉まれるのが筋だろう、というのがこの女の主張だ。最終的には俺に誠意を見せろ、と言ってきた。

「話は、それから」
「……………」

その一言には、わずかとはいえ希望が持てるような気がした。「わかった」と短く返事をしてマムに提示されたコースからとりあえず一番高いものを選んだ。誠意を見せろ、ということはそういうことだろう。そして、思った通りマムはどこか満足そうな表情を見せたかと思えば、微笑むようにして口元を持っていた扇子で隠した。

「じゃあ、早速準備するからね」
「ああ」
「名前〜!」

それは、あまりに突然だった。マムの口から出たその名前に、一瞬にして時間が止まったかのような感覚に陥る。マムの声に呼応して、奥の部屋からは「は〜い」と声が聞こえてきた。

「もうそっちはいいから、こちらのお客様を奥の部屋にご案内して」
「わかりました」

忘れるはずもない、聞き慣れた声。固まる俺の隣では、同じく驚き珍しく狼狽しているらしいエアリスの「え?えっ?」という小さな声が耳に届く。俺たちの視線が注がれる中、奥の部屋から出てきたのは、マムほど着崩してはいないものの、同じような服装をした女だった。少し急ぎ足で近寄ってきた足が、俺たちに気付いてピタリ、と止まる。
今までの名前とはまるで雰囲気が違って見える女の様子に、一瞬たまたま名前が同じだけだったのか、とも思った。だが、俺に向けられた瞳は同じく驚きに染まっていて…つい半日前まですぐ近くで見ていた金色に、間違いなく名前だと確信した。

「……………」

六番街スラムを歩きながら、あまりの如何わしさに、出来ればこの場所には居てほしくない、と心の何処かで思ってすらいた。そんな場所での名前との、あまりにも突然の再会。固まっているらしい名前に、気が付くと俺は…ゆっくりと歩み寄っていた。

  

ラピスラズリ