39:“大丈夫”


  

歓声と共に始まった決勝戦。決着はすぐについた。勝者はクラウドとエアリス。
相手は今まさに隣に座っているチョコボ・サムの推薦…と言っても、ロボットだったけど…まぁ、どちらにしてもその相手である張本人がすぐ隣にいるのだから、手放しで喜ぶのは何だか気が引けた。大喜びしているマムを見ながら、とにかく、あたしはホッとしていた。2人共、怪我などはしていないだろう…無事に戦いが終わったことに心の底から安堵する。その安堵が、すぐに打ち消されることになるなんて、この時のあたしは思いもしていなかった。



「喜んでるとこ悪いね。残念だけど、もう一戦やってもらうよ」

マムの一言に、クラウドは思いっきり眉を寄せ、エアリスの表情からも笑顔が消えた。どうしてこうなったのか、事の次第をマムの側で全て見ていたあたしですらガックリと肩を落としたい気持ちなのだ。優勝したと思っていたクラウドとエアリスにとっては、あたし以上の落胆だろう。

「あんたらは盛り上げ過ぎちまったのさ。白熱する試合に客の掛け金も膨れ上がった…コルネオがこの機会を逃すはずがないんだよ」
「…確かに、すごい盛り上がりだったもんね…クラウドとエアリスを応援する人たちも増えてきてるみたいだったし」

2人、大人気だったよ、と付け加えるあたしに、う〜ん、あんまり嬉しくないかも…と言ってエアリスが笑った。コルネオが用意する最後の敵を倒して、ようやく2人の優勝が決まる…ことになってしまったらしい。
マムは放送禁止用語を連発して怒っていたけど、最終的には「仕方ない」と言って受け入れた。いや、受け入れるしかないんだ…ここでは、コルネオがルールだから。そんな奴の元からティファを救出する…簡単なことではないとわかっていたけど、改めてその難しさを実感させられた気分だ。

「…次が最後だな」
「そう願いたいね」

どこか呆れたように言い放ったマムに、クラウドが小さくため息をついたのがわかった。そして控え室を出て行こうとするクラウドと、ふいに目が合う。何か言わなくちゃ…と口は開きかけるのに、言葉は出てこなかった。
「頑張って」とか「応援してるよ」とか、言葉はいくつも浮かんでくるのに、口にしていいのか、分からなかった…んだと思う。戦力にならない、ただ見ていることしかできないあたしがそんなこと…言っていいのか、分からない。

「……………」

クラウドは無言のまま近付いてきて、静かに見下ろすとあたしの頭をそっと、ポンポン、と撫でてくれて…

「…大丈夫だ」
「え…?」
「次も勝つ。そんな顔、しないでくれ」

彼の言葉に、自分の表情が不安で埋め尽くされていたことに初めて気がついた。「…うん」と静かに頷くと、クラウドは満足そうに、小さく笑う。たまに見せるクラウドの笑顔が好きだ。普段のクールな表情からは想像もできないくらい、穏やかに笑うから。

「…クラウドとエアリスが勝つところ、しっかり見てるね」
「ああ」

あたしにできることは、それしかないから…という言葉は寸でのところで飲み込んだ。そのまま会場の方へ歩いていくクラウドの後ろ姿を見送るあたしに、今度はエアリスが声をかけてくる。後ろから肩をポン、と叩かれて、振り返るとあたしも大好きなエアリスの暖かな笑顔があった。

「大丈夫、だよ」
「え?」

さっきのクラウドと同じ言葉。だけど、意味合いが全然違うことにすぐ気がついた。

「クラウドが名前を戦わせないのは、邪魔だからじゃない。名前が戦えないから、でもない。怪我をしたり、危ない目に合わせたくないんだと思う」
「……………」
「名前がいなくなって、こうしてまた会えて…クラウド、何だか変わったと思うの」
「…そう、なの?」
「うん、名前のこと、すごく大切に思ってるんだよ、きっと」
「……………」
「クラウドは、多分認めないだろうけどね」
「…エアリス」

エアリスの言葉は俄かに信じがたいものだった。でも、彼女が気休めでこんなことを口にしたりしないことも知っている。きっと、エアリスなりに本当にそう感じているのだろう…それが本当だったら、どんなに嬉しいか…クラウドの本心はわからないまま。何も言えずにいると、エアリスはまたニッコリと笑って…

「だから、名前も、自分の気持ちに素直に、ね」
「…え?」

…あた、し…?思わずキョトンとしているあたしににこやかに手を振って、「じゃあ、行ってくるね!応援、よろしく」と言いながら、エアリスがクラウドの背中を追いかけて、会場の扉へと向かっていった。
あたしの気持ち…って、一体…
一緒に戦いたい…?ティファを助けに行きたい…?クラウドと、一緒に、いたい…?

「……………」

思わず考え込んでいると、背後からマムに声をかけられた。「じゃ、あたしたちも行こうか」と言われて「はい」と頷く。そうだ…急がないと、試合が始まってしまう。

「…クラウド、あんたの前ではあんな顔見せるんだねぇ…」

慌ててマムの後を追いかけるあたしの耳に、その時呟いたマムの声はぼんやりとしか届かなかった。会場の歓声がますます大きくなるのがわかった。

  

ラピスラズリ