これから2人で、少しずつ(クラウド)

  

名前と出会ったのは、セフィロスを追う旅の途中、軒を連ねる宿屋の中から手頃なものを選び、そのうちの一軒に足を踏み入れたときだった。
突然、ある一点から目が離せなくなったあの感覚は、今でも言葉に表し難い。視線の先では、ティファとエアリスがカウンターで空室を確認していた。
ふと、カウンターに受付として立つ名前が顔を上げて目が合った。一瞬にして全身が硬直する俺の耳に「クラウド、部屋、空いてるって」というエアリスの声と「どうする?」と聞いてくるティファの声が届く。
「…あぁ…いいんじゃないか」とだけ返事をして、俺は視線を逸らすかのように顔を背けた。



少し遠慮気味に扉を叩くと、中からは「は〜い」と耳障りの良い高めの声が聞こえた。この声は、エアリスだ。

「ティファ、いるか?」

そう声をかけると、程なくしてティファが部屋の扉を開けて、顔を出した。「ちょっといいか?」と言いながら、宿屋のロビーへと繋がる階段を指差すと、「大丈夫だよ」と小さく頷いたティファが俺の後に続く。
外はすっかり暗くなっているが、夕食を済ませてから宿に入る者達で受付はまた混雑し始めていた。今日は早めに宿を取っておいて正解だったな、などとぼんやり思う。

「何か、話?」
「あ…いや…」
「え?」

首を傾げるティファに内心「そうじゃない、話があるから呼んだんだ」とは思うものの、正直なんて切り出せばいいのかわからなかった。後頭部を掻きながら言葉を探すものの、ちょうどいい言葉が見付かるわけもなくて…
結局、そのままを口にした。

「その…あれだ。名前は、元気か?」
「名前?」
「そうだ。昼間、何となくだが、沈んでいるように見えた」

唐突にそう告げるとティファは少し驚いた顔を見せた。それから、どこか呆れたように俺に笑いかけてくる。

「名前に、自分で聞けばいいのに」
「…そんなことができれば…とっくにそうしている」

そう、それが出来ないから、こんな回りくどい手段を取っているのだ。今ならはっきりとわかる。
数日前、立ち寄った宿屋で受付に立つ名前を目にした瞬間、俺は確かに見惚れていた…のだろう。だが、話しかけるなどという選択肢はなかった。何を話していいのかもわからない。
そんな時、部屋に入ってしばらくした後、彼女と会話をしたバレットから名前の情報がもたらされた。彼女は生き別れの兄弟を探してるらしい…この世界じゃ、珍しい話でも何でもなかった。
名前は、あえて人の出入りが多い宿屋で仕事に就き、宿泊客の中から兄弟、または有力な情報がないかを待っている、という話だった。その話を聞いて、何となく受付に足が向いた。
そこにはティファとエアリスがいて、年齢も近いのだろう彼女達はすぐに名前とも意気投合しているように見えた。待ってるのもいいだろう…否定はしない。だが、彼女にもしその気があるのなら、自分から出向く…という選択肢だってあるはずだ。
「一緒に行かないか」と、気が付けば声をかけていた。

「名前、確かに少し元気ないかも…」
「やっぱりそうか」

目の前のティファが小さく頷くのを見て、俺は考えを巡らせた。一緒に行動するようになって数日、俺たちにとっては慣れた行程であっても、まだ旅慣れしていない名前にとっては辛かったのかもしれない。
もう少しゆっくり行くか、途中の休憩を多くするか…
そんなことを考えていると、ティファが小さくため息をついたのがわかって、俺が顔を上げるのと、ティファがそんな俺との距離をずいっと詰めてくるのは、ほぼ同時だったように思えた。

「あのね、クラウド…そういうところ、本っ当に鈍感だから、はっきり言うね?」
「…何を」
「名前が元気がないのは、クラウドに嫌われているんじゃないかって落ち込んでるからなの」
「は?」

嫌われている…?俺に…?そんなことは有り得ない。
絶句する俺にティファが「心当たり、ない?」と続けたが、そんなものは…

「……………」
「わたしやエアリスとは普通に会話するのに、名前とは一切しない。名前が話しかけても素っ気ない。目も合わせない。他にも、まだ言う?」
「……いや」

…確かに、そう言われてしまえば、その通りだと思った。だが、それは間違えなくティファが口にしたような理由からじゃない。何を話せばいいのか、わからないのだ。ついでに言ってしまえば、目を合わせ続ける事すら難しくて、すぐに顔を背けてしまう。そんな俺の態度の理由は、どうやらティファには筒抜けのようだ。

「わたしにはわかるよ、付き合い長いから。クラウドは照れてるだけなんだって…本当は名前のことが気になって仕方がないのに」
「……………」
「図星でしょ?」
「……そう、だな」
「でもね、まだ知り合ったばかりの名前には、そんなのわからないよ」

眉を下げながら笑うティファに「名前の様子を聞く度にわたしを呼び出して、彼女にわたしとの関係を疑われたら困るでしょ?」と続けられ、自分でも驚くほど自然と頷いていた。
このままじゃ、ダメだな…そう思った瞬間だった。

「…と、いうわけで」
「え?」
「エアリス〜!」
「はいは〜い」

何故か客室がある2階に向かって階段下からエアリスの名前を呼ぶティファに呆気に取られていると、すぐにエアリスと、彼女に半ば引き摺られているかのようにしている名前が現れた。

「ちょっとっ…わたし、本当に無理っ…」
「いいからいいから」

エアリスに軽く宥められながら、名前が俺の側に連れてこられた。ティファが「ご飯まだでしょ?2人で行ってきなよ」とウインクして見せ、エアリスまで「誤解は早めに解かなきゃね。それと、2人の話、わたしと名前には聞こえてないから安心して」と微笑んでいる。
有無を言わさぬ雰囲気があった…俺にはわかる…



そして今、俺と名前は宿を出て、軒を連ねる店々の間を会話なく歩いていた。こうして並ぶと、名前はティファやエアリスに比べてだいぶ小柄だな、とぼんやり思った。
食事屋と飲み屋が点在している宿場町らしい町並みに、時間的に人もまだまだ出ている。名前に合わせるように、いつもよりゆっくり歩いていたものの、ちらりと横を見ると彼女は何度もすれ違う人波にぶつかりそうになりながら何とか歩いている状態だった。その腕をそっと掴んで、道の端へと寄せると驚いたように顔を上げた名前と視線がぶつかった。

「…人が多い。端を歩こう」
「あ、ありがとう」

「ああ」と返事をしながら腕を離すが、掴んだ腕の細さに今更のように驚いている自分がいる。そういえば、こんなに間近で彼女の瞳を見たのも、初めてかもしれない…名前の瞳の色も、初めてちゃんと認識したような気がした。

「…何か、食べたいものはあるか?」
「え…あぁ、わたしは何でも。クラウドさんは?」
「俺は、名前が食べたいものでいい」

いつもの調子でそう返すと、名前は一瞬驚いた顔を見せた後で、ふふっと小さく笑った。「それじゃ、いつまでたっても決まらなそう」と困ったように笑う名前に、それもそうだな、と頷いた。
彼女の笑顔を見ることが、こんなに穏やかな気持ちになるとは想像もしなかった。胸につかえていたものが、すっと無くなるような感覚だ。今なら、言えるかもしれない…

「名前」
「はい」
「俺は、アンタを嫌ってはいない…こういう性格なんだ」
「……………」
「それに、旅の邪魔になると思うような相手をわざわざ同行させるほど、お人好しでもない」

そう言うと、名前は大きな瞳をさらに大きく見開いたかと思うと、今度は静かに瞼を落としながらわずかに俯いた。多くの人が行き交う中だが、不思議と名前の声はしっかりと耳に届くようだ。

「…わたし、クラウドさんたちの足手纏いになっていると思って…」
「そんな風に思ったことは一度もない」
「…本当、ですか?」
「ああ。だから…」

…ずっと、一緒にいてほしい。透き通るような瞳に、守りたいと思わせる笑顔を前に、素直にそう思ったが、とっさに口から零れ落ちそうになった言葉は寸でのところで飲み込んだ。今、それを言う時ではない…そんな気がしたからだ。

「これからも、一緒に行こう」

「はい」と頷き、礼を口にする名前を見ていると、自然と俺の口元も綻んでいた。とりあえず、近々『クラウド“さん”』はやめてもらうように言おう。何だか距離を感じる気がして、少し、嫌だ。
その後、手頃な店に入り、2人で食事を済ませた。名前は意外と辛いものが得意らしい。
知らなかった彼女の素顔がどんどん見えてくるのが、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった。帰り道、そっと繋いだ手が、想像以上に小さかったことも…知らなかった。宿までの道のりは、今まで思うように話せなかったこと、目すら合わせることが困難だったついさっきまでが、もはや嘘だったかのように、会話が続いた。
遠くに見えてきた宿泊先の2階のベランダにティファとエアリスの姿を見つけた俺は、あの2人には当分頭が上がらなそうだ、と1人覚悟するのだった。


後書き→
天草様よりリクエスト頂きました、『セフィロスを追う旅の中で出会ったヒロインに一目惚れしたクラウドが、ヒロインをパーティーに加えるが照れ臭くて、上手く接することができない』という内容で書かせて頂きました!
純粋すぎるクラウド、リメイクのクラウドはまさにそんな感じでしたよね!気になって気になって仕方がないのに、ヒロインちゃんに直接アクションすることができなくて、間にティファを立ててしまう…クラウドならやりそうだな、と思い、今回も大活躍のティファとエアリスでした(笑)
女性陣はそういうクラウドの心境に敏感そうですよね!今回でヒロインちゃんと徐々に接することができるようになったクラウドは、だんだんと彼女に対してアタックのようなものもしてくれるんじゃないかな、なんて期待しながら書いておりました(*^^*)クラウドのアタックだとヒロインちゃんに気付かれない可能性も大、な気がしますが、そこはね、ほら、ティファとエアリスがいますからね(笑)やっぱり大活躍の2人(*^^*)笑
天草様、素敵なリクエストをありがとうございました!ちょうど管理人の多忙時期と重なってしまい、随分お待たせして申し訳ありませんでした!拙い文章ではありますが、ほんの少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです!
この度は企画へのご参加&素敵なリクエスト、本当にありがとうございました〜(*^^*)

  

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