Signal(クラウドvsレノ)

  

「帰れ」
「おっと…随分な言われようだぞ、と」

いつもと変わらぬ、その飄々とした態度にクラウドは隠すこともせず、思いきり眉を寄せていた。ここはセブンスヘブン。周りで同じく酒や料理を楽しむ客たちにとってはどこもおかしくない光景だろう。
ただ、クラウドにとってその赤毛の男の存在はあまりに場違いで、思わず声をかけていた。

「…タークスが何の用だ」
「今はプライベートだ、公私混同はしないのがモットーでね」
「…どうだか」

不機嫌を顔に出しながらそう言ったとき、クラウドの言葉を遮るかのように後ろから明るい声がかけられる。名前だ。クラウドが店に来たことが不思議なのだろう。少し驚いた顔を見せた名前が、持って来たグラスをテーブル席に座っているレノの前に置いた。

「どうぞ。当店名物、コスモキャニオンでございます」
「ど〜も」
「クラウド、またレノさんにつっかかってたの?」
「……………」

図星なだけに否定しないでいると、名前はレノに話し掛けられて視線を彼の方へと向けてしまった。名前は、本来人見知りな性格だった。ティファに誘われ、セブンスヘブンを手伝うようになってからは接客業を経て、幾分解消されたようにも思われるが、そのことを加味したとしても、名前とレノの会話は盛り上がっているようにクラウドからは見えた。
それはつまり、レノが今までにも何度かこの店を訪れていたことを示しているのだろう。クラウドが知らない間に。
理由なんて、レノの些細な雰囲気を見れば火を見るよりも明らかだった。

「名前」
「あ…なぁに?クラウド」
「……………」

レノと名前が話しているのを見たくなくて、思わず声をかけてしまったがクラウドとレノとの関係を全く知らない彼女に「こいつと話すな」と言ったところで名前は納得しないだろう、と思い留まる。そんなクラウドの様子を不思議に思ったのか、名前は1歩近付くと、わずかに声を落として疑問を口にして来た。

「どうしたの?家の鍵、忘れた?」
「いや」
「……??じゃあ、先に帰ってて大丈夫だよ。疲れてるでしょ?」
「……………」

それが出来れば苦労はしない。そんな風に思いながらも口を噤んでいるクラウドに、彼女はまた小さく首を傾げた。だが、何やらクラウドの様子がいつもと違うことには気が付いているようで、ちょっと待ってね、と小さく返すとまだ盆の上に残っていた酒の付け合わせが入った小皿をレノの席へと置いた。
何か話したそうにしているクラウドの話を聞くために、ほんの一瞬だけ、この場を離れようと思っていたのだ。だが、その瞬間だった。小皿を置くために、わずかに上体を倒した名前の頬にレノが唇を寄せた。本当に、一瞬の出来事…えっ、と固まる名前の耳に小さなリップノイズが届く。

「え…な…っ、レノさんっ!」
「いや、可愛い名前ちゃんの顔が近づいて来たから、つい、な」

つい、と言いながら挑戦的な視線を投げてくるレノの意図をクラウドは瞬時に理解した。どうやら、自分以外の者と名前が会話するのを快く思わない輩はクラウドだけではないようだ。明らかにクラウドへの牽制行為。
クラウドは込み上げてくる感情をとっさに飲み込んだ。この場で、今すぐにでもバスターソードに手を掛けたい心境ではあるが、こんなところでそんなことをすれば仕事に熱心に取り組んでいる名前はもちろん、店の主人であるティファからの怒りまで降りかかることが容易に想像できる。
それよりも効果的な方法が頭に浮かんだクラウドはすぐに行動に移した。
顔を赤くしながら、レノに言い返している名前の手を引いて体を引き寄せると、レノとは反対側の頬に口付ける。チュッというリップノイズと共に顔を離すクラウドの目に映るのは、一気に顔を真っ赤にして硬直する名前の姿。そんな彼女の姿にどこか満足そうにクラウドが話し掛ける。

「鍵は持ってる。じゃあ、先に帰ってるからな」
「………う……うん…わかっ、た…」

名前の返事を聞いたクラウドは、レノにちらりと視線を投げて、そのまま店を出て行った。さて、どうしたものか…と、その場で固まったまま動けないでいる名前を眺めていたレノの横からすっとテーブルの上に頼んだ料理が運ばれて来たのは、その時だった。

「名前の様子を見ると、今日の勝者ははっきりしちゃったみたいね」

そう言って笑ったのは、料理を運んで来たティファだった。その言葉にレノは笑みを返す。

「なぁに…数ヶ月後には立場逆転させて見せるぞ、と」

レノの強気な宣戦布告、クラウドが知れば、また荒れそうだ、とティファは苦笑いを見せるのみ。視線の先の名前にかかったフリーズは、まだ解けそうにない。



後書き→
ドル様よりリクエスト頂きました、『クラウドとレノとの三角関係でクラウドが嫉妬する』という内容で書かせて頂きました!
長編でのクラウドとレノの教会でのやり取りがとてもドキドキした、とのことで大変嬉しく思っております!ありがとうございます!(*^^*)長編でのクラウドVSレノも、今後再び勃発する予定でおりますので、またドキドキしていただけましたら嬉しいです(*^^*)そして、今回の三角関係…素敵なリクエストで、書いていてとても楽しかったですvv
ヒロインちゃん目的にプライベートでセブンスヘブンを訪れるレノ…ティファはお客として来ているのであればあまり気にしなそうですが、クラウドは帰れオーラ全開にしそうだな、なんて想像しながら書かせていただきました!
そして、ヒロインちゃんは何故2人がそんなに仲が悪いのか、いまいちわかっていない、という…(^^;)
レノは諦めが悪そうですし、ヒロインちゃんはレノの意図がよくわかっていないし、クラウドの苦労は続きそうですね。頑張れ、クラウド(笑)
ドル様、素敵なリクエストをありがとうございました!ちょうど管理人の多忙時期と重なってしまい、随分お待たせして申し訳ありませんでした!拙い文章ではありますが、ほんの少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです!
この度は企画へのご参加&素敵なリクエスト、本当にありがとうございました〜(*^^*)

  

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