TPOってとっても大事(長編クラウド)

  

「名前、ちょっと」

アイテムの補充に向かおうとしていたクラウドに、ふと呼び止められた。「なに?」と聞き返しながら彼の方に歩いて行くと、そのまま手を引かれる。

「アイテムの在庫は、俺よりも名前の方が把握してるだろ」
「一緒に行った方がいい、ってこと?」
「そうしてくれると助かる」

もちろんいいよ、と頷いて振り返ると、少し離れたところにいるエアリスが笑顔で手を振ってくれた。あれは、今の話全部聞こえていました、って顔だ、絶対に。そう思うと、少し照れ臭くも感じたけれど、エアリスが状況を把握してくれているのなら、このまま2人で出掛けても支障はないだろう。
そう判断して、引かれていたクラウドの手をそっと握り返した。どこか満足そうにあたしを見下ろしている彼を見ていると、ほんの少しだけ、からかってみたくなって…

「…2人きりになりたいなら、そう言えばいいのに」

ポツリと呟くように放ったその言葉に、一瞬だけ驚いた表情を見せたクラウドの反応があまりにも予想通りすぎて、思わず笑ってしまう。

「…言えるわけないだろ」
「うん、そうだね、みんなの前ではハードル高いよね」
「…2人になりたいって思ってるのは、俺だけなのか?」
「…え?」

まさかの巨大なブーメランがクラウドから放たれて、あたしへと迫ってくる。…そんな風に、じっと見ないでほしい。クラウドの碧色の瞳は大好きだけど、こういう時は、何だか気持ちの奥の方まで見透かされてしまいそうで、ほんの少しだけ、逃げたくなる。これ以上見つめられるのはもう限界で、わずかに視線を逸らすとクラウドは返答を促すかのように顔を覗き込んできた。あぁぁ…もう……

「…あたしだって、たまには2人になりたいって、思って…ます」
「ん」
「早く、アイテムの補充に行こ」
「そうだな」

自分で蒔いた種とはいえ、あえて聞かれると恥ずかしいものだ。クラウドとのこの話がすっぱりと終わったことに内心感謝をしながら、アイテム屋を目指す。手を引かれ、会話をしながらも、道すがらずっとアイテムの在庫について考えていた。ポーション類は、まだ在庫が十分だったはず。あ、エーテル類は残りが少なくなってたな…
フェニックスの尾も気持ち的には十分すぎる程に持っておきたいところだけど、どうしようかな…そういえばクラウド、お金っていくら位持ってるんだろう…

「ねぇ、クラウド」

所持金は大きな問題だ。そう思って、顔を上げた時だった。落ちてくる影にハッとした次の瞬間には、唇に温かな感触…その熱はすぐに離れて、整ったクラウドの顔が間近に現れる。
一気に頬が熱くなって、思わず顔を背けてしまう。いきなり何をする、と少し上ずった声で言えば、わずかにクラウドが不満そうな雰囲気を纏ったのがわかった。

「…黙ってしていいって言ったのは名前だろ」
「それは…確かに、そうだけど…」

そう、確かに言った。はっきりと覚えている。想いが通じ合ってからというもの、キスをする時はいつも「…キス、していいか?」と聞いてくれるクラウドに「そういうのは、黙ってしていいんだよ。付き合ってるんだから」と、確かに言った。それは否定しないし、今だってその気持ちに変わりはない。あたしだって、クラウドのことが大好きなんだから…キスされるのだって嬉しいし、あたしもしたいって思う。でも、ね…TPOって大事。うん、すごく大事。
こんな街中でなんて、ダメだ。恥ずかしすぎる。真っ赤な顔でそう伝えてみたけれど…

「誰も見てない」

と言われて終わった。そういう問題ではないんだけどな…どうやら彼とはその辺の価値観が違っていることが発覚。こうなれば、取れる手段は多くない。

「…やっぱり、前みたいに、する前に聞いてもらおう、かなぁ…」
「イヤだ」
「やっぱり?」
「当然だな」

ふ、とどこか勝ち誇ったように笑ったクラウドが、再び歩き出す瞬間にもう一度触れるだけのキスをしてきた。真っ赤な顔で「…もう…」としか反論できないあたしは、惚れた弱みってこういうことを言うんだろうな、と妙に納得しながら手を引かれる。路地の向こうには目的地となるアイテム屋の看板が見えてきた。



後書き→
煉様よりリクエスト頂きました、『長編主とクラウドが結ばれた後の甘夢』という内容で書かせて頂きました!
本編ではまだ結ばれていない2人なので、管理人自身、長編の2人のラブラブを書くことに飢えている中での素晴らしすぎるリクエスト…!!2人のラブラブが書ける!!と、かなりテンション上げて書かせていただきました(*^^*)
クラウドはヒロインちゃんさえ側にいれば、周りのこととかはあまり気にしなさそうだな、と思いまして…ヒロインちゃんはある意味、これから苦労しそうですね(笑)幸せそうで何よりですvvv(笑)
煉様、素敵なリクエストをありがとうございました!ちょうど管理人の多忙時期と重なってしまい、随分お待たせして申し訳ありませんでした!拙い文章ではありますが、ほんの少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです!
この度は企画へのご参加&素敵なリクエスト、本当にありがとうございました〜(*^^*)

  

ラピスラズリ