41:2人の想い


  

2人きりになった今しかない、と思った。自分自身びっくりするくらいの勇気を総動員してクラウドに尋ねたあたしに対する彼の返答は、NOだった。じっと見つめられながら、その一言が棘のようにあたしに刺さる。

「ダメだ」
「どうして…?」

理由なんて明白なのに、そう聞かずにはいられなかった。それくらい、自分でも気が付かないくらい、あたしは見えない何かに追い詰められていたのかもしれない。クラウドの碧は、あたしから離れない。「やっと、また会えたのに…」と、何とか紡いだ言葉は驚くほど震えていた。

「クラウドから離れてあたしだけで向こうに3日もいて…何度も、もう会えないんじゃないかって、不安で…」
「…それは、俺も同じ気持ちだった」
「だったら…」
「それでも、ダメだ。名前は、マムのところで待て」

そうきっぱりと告げたクラウドが、またあたしの手を引いて歩き始める。まるで、もう話は終わりだ、とでも言われたかのようだった。ねぇ、クラウド…あたし、全然納得してないよ?
しばらくお互い無言であてもなく歩いた。六番街スラムの喧騒がどこか遠くに聞こえる。ずっと力が入らないまま、ただただクラウドに引かれていた手を、グッと引っ張る。思った通り、クラウドはほんの少し驚いた表情を見せて、立ち止まった。

「…もし、あたしも戦えたら、連れて行ってもらえるの?」
「名前…ずっとマムのところに置いていく訳じゃない。ティファを助けたら、迎えに来る」
「それでも一緒に行きたいの。マテリア、今から特訓するから」

そう言いながら、着物の袖に入れておいたマテリアを取り出して見せる。クラウドと離れても、マムのところで着物に袖を通すことになっても、一度も手放すことなく持っていた緑色の輝き。たった1人で向こうの世界に戻って、また見知らぬ六番街スラムに来たあたしにとって、このマテリアだけがクラウドとの繋がりを示すもののように思えて…片時も手放すことができなかったのだ。だけど、クラウドは…

「ダメだ」

やっぱり、その一言しか口にしない。じっと見つめる彼の瞳から逃げるように俯いて、あたしは静かにマテリアを握り締めた。何をしているんだろう…と、ふと思う。戦えないあたしが、何度お願いしたところでクラウドの足手纏いである事実は変わらないのに…思えば、こんな風に我儘を言うのは、初めてかもしれない。こっちの世界に来て、クラウドが「無理だ」と言えば、そうだよな、とすぐに納得したし身を引いた。それなのに、今回はどうしてもそれが出来ない。何度も食い下がっている自分がいる。

「……………」

うん、もう、気付いている。…これは、嫉妬だ。クラウドの隣で戦うことを許されたエアリスの姿があたしに焦りと不安を与えている。あんなに良くしてくれたエアリス…優しい言葉をかけてくれるエアリス…そんな彼女に対して、こんな気持ちを抱いている自分自身が浅ましく思えた。気がつくと、ゆっくりと首を横に振っているあたしがいた。これほどまでに何度もクラウドに同行を拒否されているのだ…これ以上食い下がったところで、彼の答えは変わらないだろう。
もう、これ以上は無理だ…頑張れない…。ただ…

「…一緒にいたい、だけなのに…」

どうして、こんな気持ちになるのか…ずっと気が付かないようにしていたけど、もうこれ以上隠せないだろうと思う。あたしは、クラウドのことが…

「………っ……!」

その時だった。クラウドが今まで以上に力強くあたしの手を引いて足早に歩き出す。あたしはまるで引き摺られているかのような状態。こんな歩き方をする彼は知らない。

「クラ…」

思わず声をかけようとしたその時、クラウドが近くにあった建物に足を踏み入れる。そこがどういう場所なのか、わからないほどあたしだって子供じゃない。ただ、彼がそういう場所に足を運ぶことには素直に驚いた。きっと、深い意味はない。
いつも賑わっていて、多くの人が行き来している六番街スラム。彼にとっては周りに聞かれたくない話をしようとしているだけ、なのだろう。他意はない。もしかしたら、このまま愛想を尽かされてしまうのかもしれない…
押し寄せる不安でいっぱいになったあたしが何も口を挟めないまま、彼は受付で手短に要件を伝え、部屋を借りた。そしてまた足早にあたしを引っ張っていく。しっかりと握られている手だけど、振り解こうと思えばできるような絶妙な力加減であることに、ふと気がついた。多分、場所が場所なだけに、あたしが嫌なら振り解けるように…どこまでも、優しい人…本当に。
クラウドに連れられるまま足を踏み入れた部屋は、簡素で必要なものだけが置いてある印象だった。ベッドサイドの小さな明かりが妙に主張している気がして、正直少し落ち着かない。部屋の扉を閉めて、ゆっくりと振り向くクラウドと目が合う。オレンジ色の明かりに照らされたクラウドの碧は、普段とはまた違った色味を見せていて、思わず見入ってしまった。
クラウドのグローブを嵌めた両手がそっとあたしの両肩に置かれる。

「名前のこと、足手纏いだと思ったことは一度もない」
「………え?」
「ただ…」

一瞬だけ逸らされたクラウドの瞳は、すぐにまた戻って来てあたしを見つめた。

「ただ、危険な目に合わせたくないんだ」
「…でも」
「モンスターからなら、いくらでも守ってやれる。だが、今回は状況が違う…しばらくこの六番街スラムにいたなら、コルネオがどういう男か、名前だって知っているだろ」
「それ、は…」
「名前を、そういう目で見られるのは…俺が耐えられないんだ」

クラウドから紡がれる言葉の全てが、すぐには信じられなかった。真っ直ぐに見つめてくるクラウドの瞳を呆然と見たまま、ふと「名前のこと、すごく大切に思ってるんだよ、きっと」とあたしに笑いかけてくれたエアリスの笑顔が脳裏に浮かんだ。
彼女は、ずっとお見通しだったのだろうか…

「…クラ、ウド…」
「泣きそうなアンタを見て、ようやく気が付いた。俺は、名前が好き、なんだと思う」

あたしの周りの全ての時間が、止まった気がした。

  

ラピスラズリ