
「わぁ…綺麗…」
マダム・マムのお店まで、クラウドと手を繋いで帰った。ここを出るときも、確かに彼に手を引かれていたけれど、あの時と、今とでは、気持ちの面で全然違う…
店の扉の前でどちらともなく手を離すと、中に入った。その瞬間、視界に飛び込んで来たエアリスの姿に思わず漏れたのが冒頭の一言。真っ赤なドレスに身を包み、結った髪を花々で美しく飾ったエアリスが笑顔で振り返る。
「名前、クラウド!よかった、今探しに行こうと思ってたの」
そう言って駆け寄ってくる彼女が眩しすぎて、思わずあたしまで飛び跳ねたい気持ちになった。ふと見ると、クラウドは受付のところでマムと何やら話しているようだった。このままエアリスと少し話していてもよさそうだ…そのことを素直に嬉しいと感じながら、もう一度エアリスに視線を戻すと、何故か彼女はニッコリと微笑んで…
「ね、名前。なにか良いこと、あったでしょ」
「え…?」
「やっぱり!何となく顔にそう書いてあるもん」
エアリスの直感には、いつもドキッとさせられる。驚いてしまったあたしが何も言えずにいると、エアリスはふふっと笑いながら、そっとあたしの両手を握りしめて来た。
「今度、ちゃんと聞かせて?絶対だよ?」
「うん、約束する」
「ティファも助けて、みんなでガールズトーク、するの」
「それ、楽しそう」
あたしも笑顔でそう返すと「でしょでしょ?」と言いながら、エアリスが笑った。そういえば…と、ふと、前にエアリスが「年の近い同性の友達がいなかった」と話していたのが思い出された。だから、あたしと色んな話ができて嬉しい、って。ガールズトーク、絶対に実現させよう…ティファも一緒に。
そんな決意をしながら、エアリスの温かい両手をぎゅっと握り返した…その時だった。一瞬だけ…本当に一瞬だけ…だけど、確かにほんの少し彼女の表情が変わったような気がした。よくわからないけど、すごく、驚いているような、そんな風に見えて…
「…どうかした?」
思わずそう声をかけると、エアリスが綺麗な緑色の瞳をじっとあたしに向けてくる。
「…名前も…持ってるんだ」
「え?」
「何を?」とほぼ無意識に聞き返すと、エアリスはわざと声を落としたようだった。まるで、周りに聞こえないようにするみたいに…
「マテリア」
「え、と…それなら、クラウドから貰った緑色のが…」
「ううん、それじゃなくて」
「………?」
あたしが持っているマテリアは、クラウドに貰ったコレだけ。心配に思って着物の袖を確認するけど、間違いなく丸い感触が1つ。「これ1つだけだよ?」と答えるとエアリスはしばらく黙って…そして、そっと瞳を伏せるとまた笑顔を見せてくれた。笑顔で「そっか」…って。その様子がものすごく気になって、どういうことなのか聞き返そうと口を開こうとした時…クラウドに名前を呼ばれて、とっさに口を噤む。
「クラウド、どうしたの?」
「マムから聞いたんだが、どうやらさっきのトーナメントでアニヤン・クーニャンに興味を持たれているらしい」
「そうなの?それって、すごいことだよ」
会ったことはないけれど、アニヤン・クーニャンもこの街では知らない人がいないほどの人物だ。クラウドはこのタイミングなら、彼に直接会って推薦状をお願いできるかもしれない、と考えているようだけど、それについてはあたしも同意見だった。こんなチャンス、もう二度と巡ってこないかもしれない。
「あたしは、ここでお留守番してるね」
「すまない。コルネオのところからティファを助けたら、必ず迎えに来る」
「うん」
わかった、と頷くとクラウドが優しく微笑んでくれた。もう誤解は解けたのだから、ここで留守番することに異論なんてない。アニヤンのところへ直談判に行くクラウドを送り出そうとした時、エアリスが「はい!」と手を挙げた。
「あたしに任せて!ちょっと考えがあるんだ〜」
エアリスの提案に何か言おうとしていたらしいクラウドが口を開く前に、彼女はクラウドの背中をぐいぐい押して、もう扉の目の前まで行っている。相手に有無を言わさず、それでいて不快にさせない行動の全てはエアリスの人柄あってこそ出来ることであって、彼女の大きな強みだなぁ…と関心する他なかった。
そんなことを考えながら、手を振って2人を見送ろうとしていたあたしの方にエアリスが振り返る。そして笑顔で駆け寄って来ると…
「名前も、来れたらあとで来て?ちょっとだけでいいから」
「え?」
「きっと、すごいもの、見られるよ?」
何も聞き返せないままでいるあたしは「じゃあ、行ってきま〜す」と出掛けて行くエアリスに首を傾げながら手を振って、そんな彼女にまたもや背中を押され「…おいっ」と戸惑っているらしいクラウドに苦笑いを見せるばかりだった。結局、エアリスが言っていた“マテリア”とは何だったのか、聞けずじまいだったことにふと気がついて、あたしは小さくため息をついた。
まぁ、いいか…多分、エアリスの勘違いだろうし。
そんな風に思っていたあたしはエアリスの直感の鋭さに後々、またしても驚かされることになる。この時は、そんなこと…思いもしなかった。
