
簡単なことだ、と思った。
エアリスに言われるまま、俺が女の格好をする羽目になったり、コルネオの館でガスを嗅がされてしまったり、振り返れば紆余曲折あったとは思う。だが、結局ティファとの合流を果たせた。コルネオに吐かせるべき情報がある、とティファはこのまま脱出することを拒んだが、それならさっさと吐かせてここを出ればいい。手下もコルネオも大したことはないだろう。一番の難関だと思われたティファとの合流を果たせた今、あとは至極簡単なこと。俺は、そう思っていた。
だが、目の前でベラベラと情報を吐きながら笑うコルネオの姿に、全身がゆっくりと硬直していくのを自覚する。
「神羅は魔晄炉を爆破したアバランチとかいう一味をアジトもろともつぶすつもりなのさ。文字通り、つぶしちまうんだ…プレートを支える柱を壊してよ」
あまりにも飛び抜けた話だった。規模さえもわかっていないはずのアバランチに対する報復にしては、あまりにも…
だが、それ以上に俺は少し前のやり取りが思い出されて、血の気が引くような感覚に陥っていた。頭の中に、名前の声が再生される。
『あの、ね…おかしなことを言ってるって、思われる、かもしれないけど…もしかしたら…もしかしたら、ね…七番街が、危ないのかも…しれない』
俺を見上げた瞳が、今にも泣きそうで…弱々しく掴まれた腕からは、名前の震えが伝わって来た。今でも、鮮明に思い出す。
『あたしにも、何が何だか…プレートが落ちて…七番街スラムに…』
俺が「…どういうことだ?」と聞き返せば、わからない、と頭を振っていた。そして、頭の中に流れ込んでくる、とも。今、俺の目の前で、一体何が起こっているんだ…?コルネオが勝ち誇ったようにベラベラと話す内容は、名前が震えながら俺に訴えた内容そのものだった。名前が神羅の計画を知っていた…?
有り得ない。何の接点もないはずだ…神羅とも、コルネオとも…
いくら先に六番街スラムに降り立ち、マダム・マムの店で手伝いをしていたとはいえ、彼女の話だと滞在していたのはものの半日程度。そんな短い期間で、こんな深い闇に触れるところまで名前が到達していたとは、到底思えなかった。だが、それなら…どうして…
「……………」
「……………」
無言のまま、ふと視線を感じて横を向くと、エアリスと目が合った。エアリスの表情も明らかに強張っていた。おそらく、俺と全く同じことを考えているのだろう。エアリスも名前がその話をした時、少し離れていたとはいえ、その場にいた。聞こえていたと考えるのが自然だ。
何も知らないティファだけが「どういうこと?」とコルネオにさらに詰め寄っている。
「分かんねぇか?プレートがヒューッ ドガガガだ!六番プレートの事故と一緒さ。六番街スラムの瓦礫は見たことあるだろ?今度は七番街があれになるってわけだ」
「そんな…」
何もかも、やはり名前が話した内容と同じだ。彼女は「頭の中に流れ込んでくる」と言っていた。これから起こる光景が視えたのか…?まさか、そんな事は有り得ない…そう自分に言い聞かせながらも、戸惑いながら必死に俺に訴えていた名前の言葉と表情が消えない。
不安がる名前に「大丈夫だ」と、「以前プレート建設中にそんな事故があったらしい。だが、プレートが完成した今、もうそんな事故は有り得ない」と、そう言った少し前の俺自身を殴りつけたい気持ちになった。もっと、しっかり彼女の話を聞いてやるべきだったんじゃないのか…?
思わず、そんな考えが悶々と浮かび続ける俺を呼び覚ましたのは、エアリスの声だった。
「ティファ、クラウド、行こう」
翡翠色の瞳に射抜かれたような気がして、ハッとした。そうだ、今そんなことを考えている場合じゃない。
コルネオの神羅による計画はあまりにも飛び抜けているが、名前の話を統合すれば信じざるを得なくなってくる。何より、せっかく名前が必死に訴えてくれて、コルネオからも吐き出させた情報だ。事前に計画を知った強みを生かして、止めなければならない。そう、強く思った。
「ちょっと待った!」
「黙れ」
「すぐ終わるから聞いてくれ」
部屋から出ようと走り出す俺たちを止めるコルネオの声に、思わず足を止め振り返った。この時、やはり立ち止まらずに部屋の外に出るべきだった。後悔先に立たず…とはいうものの、突然床が抜け足場を失った瞬間、強い落下の感覚と後悔に襲われた。暗闇に意識が落ちていく中、頭に浮かんでくるのは、やはり不安げな名前の瞳だった。
