
「……っ……」
気がつくと、ベッドの上にいた。
俺は寝ていた…のか?
その割には、やけに心臓がうるさく鼓動している。
探るように、ゆっくりと辺りを見回して、ようやく理解した。
…そうだった。
ティファの誘いでアバランチに雇われて、壱番魔晄炉の爆破作戦に参加した。
ここは…ティファが懇意にしている大家に頼んで、用意してくれていた部屋だ。
壁を見れば、寝る前に立てかけたバスターソードもそこにある。
「……………」
自室に1人なのに、妙に落ち着かない気分だ。
あれは…夢、だったのか?
今の状況を見るなら、そう考えるのが一番自然だろう。
あの、妙に世話焼きな女の姿はどこにもない。
常識がまるで通用しない、あのおかしな世界も。
久し振りの任務だったからか…珍しくチームで動く作戦だったからか…
何にしても、慣れないことはするものじゃないな。
きっと、そのせいだ…
そう自分に言い聞かせて、もう一度瞳を閉じるが…眠れるわけがない。
いやにリアルな夢だった。
目を閉じるだけで、すぐに情景が思い出される。
「……はぁ」
グローブをはめたままの自分の手を見つめる。
あの時、とっさに手を伸ばしていた…俺らしくもない。
小さくため息をついて、無理にでも少し眠ろうと思ったが、それもできないまますぐ隣の部屋から聞こえてきた物音と呻き声に飛び起きる。
バスターソードを背負って、俺は隣に向かうべく、部屋を出た。
そこで俺は、セフィロスに遭遇することになる。
正確には、幻影…だったのかもしれないが、そうは思えないほどリアルだった。
思わず剣を抜く俺の姿にティファが飛び出してくる。
気が付けば、足元に倒れているのは黒いローブのようなものを纏った男だ。
その横にティファが支えるように膝をついている。
「この人は203号室のマルカートさん。病気でずっとこんな感じなんだって…」
聞き慣れた声が、どこか遠くに聞こえる。
「時々様子を見るように大家さんからも頼まれてるんだ。クラウドも、お願いね」
「…あぁ」
ティファがいて、剣を使うのが当たり前の世界。
あぁ、やっぱりここは…俺が当然のように毎日を過ごしていた世界だ。
戻ってきた…のか…?…どこから…?
いや…あれは、ただの夢だ。
頭では十分理解できているはずなのに、何かが腑に落ちない。
下から見上げてくるティファにも、曖昧な返事しか…出来なかった。
翌朝、ティファに遅れてセブンスヘブンへ行くと、早速フィルターの交換に行く、と言われた。
正直乗り気ではないが、まだ未払いになっている前日の報酬にも関わることだ…仕方なく付き合うことにした。
その途中でティファから「何でも屋をやるなら、まずは実績が必要。いい評判、いいご縁が大切」だと、何度も言われる。
ここにきたばかりの俺に向けて、ティファからのアドバイスだ。
スラムにはスラムの心得…とやらがあるらしい。
ティファの教えに耳を傾けながら依頼を受け、こなしていく。
腕を見せるにはまだまだ程遠い簡単な依頼ばかりだ…仕事はすぐに片付いた。
「何でも屋クラウドの評判も上々。この先どんどん忙しくなるよ」
「ティファのおかげだ」
「素直でよろしい」
全ての依頼を終え、セブンスヘブンへ戻るとバレットから次の作戦は明日だ、と告げられた。
俺に酒を作ってから、ティファも作戦会議の場へ足早に向かっていく。
俺は、時折グラスの中の液体を揺らしながら…訪れた沈黙に身を任せていた。
静かな空間は嫌いじゃない。
むしろ、好きな方だろう。
だが、今日はいつもとは違い、こうして時間ができるとすぐに取り留めのない考えが頭に浮かんでは、消えていく。
それが少し不快で、俺は眉を寄せていた。
「…夢って、こんなにはっきり覚えてるものなのか…」
有り得ない世界に、異様な女。
その女に連れ出され、1度だけ見た外の景色も、部屋の間取りも、女の表情も、何もかもが頭から離れない。
夢なのだから、さっさと消えてくれればいいものを…
そう思って頭を振ると同時に、背後が騒がしくなった。
どうやら、作戦会議とやらが終わったらしい。
「ティファ!決起会だ、うまいもんたっぷり出してくれ」
「うん」
厨房に入るティファの姿が見えたと同時に、バレットが声をかけてくる。
「次はオレたちだけでやることにする。お前は仕事探しでもしてろ」
「元々そのつもりだ。契約がなければ、手伝う義理はない」
「そう言うと思ったぜ。ほら、残りの報酬だ。気持ち、上乗せしといてやった。これで晴れて契約は終了だ」
「……………」
「さぁ、悪いが席を外してくれ…身内だけでやりたいんでな」
…言われるまでもない。
テーブルに置かれた金を受け取ると、そのまま踵を返して店を出た。
部屋に戻って…少し休むか。
そう決めて、店から1歩踏み出した俺の足は、目の前の光景にすぐに止まることとなった。
「…あいつら、なんだ?」
見るからに柄の悪そうな男たち。初めて見る顔だ。
そんな男数人が何かを取り囲んでいる…男たちのせいで姿はまるで見えないが、確かに声が聞こえて…
疑念は、すぐに形となっていった。
その場から目を離せないまま、足が自然と目の前の騒動へと向かっていくようだ。
「…あ?」
男の1人が、近付く俺に気付いた。
「なんだ、てめぇ?」
1人、2人と俺に体を向けてくる。
その時、ようやく男たちに囲まれていたのが何だったのか、はっきりと見えた。
目が合った瞬間、言葉を失っている俺に向けられた瞳も大きく見開かれて、驚きようが見て取れる。
頭の中がゴチャゴチャだ。
あれは…夢、だったはず…こんなところに、いるわけがない。
「…ッ……ク、ラウド…ッ…」
疑念が、いとも簡単に確信に変わった瞬間だった。
