51:見えない再会


  

列車墓場を抜けた。
襲ってきたエリゴルを倒すと、周囲にいた無数の霊がまるで浄化されたかのように消えていった。
エアリスが言うには、エリゴルが子供達の霊をこの場に留め置いていたらしい。さっき俺が見た名前によく似た幻影も、ヤツの仕業…だったのか…?黙り込む俺を不思議に思ったのか、ティファに声をかけられたが、今見たものを話す気にはなれなかった。幻影だと言うことはわかりきっているのに、こんなにも気になる…
顔を上げれば、支柱の中間地点でバレットが応戦しているのが見えた。周りには神羅のヘリも飛び交っている…いつまでも考え込んでいるわけにはいかない。フルフルと頭を振って、ただ先を急いだ。目の前で負傷してしまったウェッジをエアリスとティファに任せて、バレットの元へと急ぎ、上へ、上へ…
その時、神羅のヘリによって全身を光に包まれる。外部に呼びかけるヘリ内部の声には、聞き覚えがあった。

『アーアー、そこのアバランチ。あんたらが支柱をブッ壊そうとしよーが、タ……じゃなかった、神羅か。
神羅はビビったりしねぇ。とっとと支柱から出て行けよ、と』

『こんな感じでいっかぁ?』とどこか緊張感の無い声までマイクから零れ落ちている。そして次の瞬間には、俺がヘリに乗っている人物に覚えがあったように、向こうも俺のことを認識したと思われた。執拗なまでのヘリからの銃撃が始まる。
支柱に積まれていた備品の後ろに身を隠すものの、ヘリからの銃撃は止むことがなく、思わず顔を顰めていた。マズイ状況だ。

「クラウド!」

思い掛けない声の方向に顔を向けると、俺の後を追ってきたらしいティファの姿が目に入る。ヘリからの銃撃が再び始まろうとしているのがわかり、背筋が凍る感覚に陥る。ティファが撃たれるかもしれない。
…だが、最悪の事態は意外な展開に回避された。何故かヘリが大きく揺れ、中に乗っている奴の『いってぇ!』という苦悶の声が聞こえてきた。どういう理由かはわからないが、銃撃がやんでいるのは事実…今しかない。隣のティファにアイコンタクトを送り、そのまま一気に階段を駆け上がる。
途中、何人もの神羅兵をなぎ倒しながら…。支柱の外からはまたヘリが追い掛けてきているのが見えるし、その銃口は常に俺たちへと向けられている。立ち止まるわけにはいかなかった。

『逃がさねぇぞ、と』

再びマイク越しに聞こえてきた声と共に始まる銃撃。だが、その時だった。マイクを通して響いてきたのは、よく聞き慣れた…けれど、今この場で聞こえてくるはずのないもので…

『な、んだっ!?』
『クラウドとティファを撃たないで!!』

…名前の声だった。

「なっ……名前…?」

思わずその場で立ち止まる。暗闇に光るヘリの照明が逆光になってしまいよく見えないが、目を凝らすとヘリの助手席に座る人物に何者かが飛びかかっているようだった。ヘリからの銃撃がやんでいるのは、間違いなくこの事態のおかげだろう。
それ以外の状況が飲み込めずにいる俺の耳に、再び名前と赤毛の男の声が届く。

『おまえっ、何でっ…!』
『さっきの揺れで頭ぶつけて、目が覚めた!』
『にしたって、薬切れんの早すぎだろ、と』

その声は、間違いなく名前のものだ。隣にいるティファも「名前が?何で?」と疑問を口にしているが、俺だってさっぱりわからない。コルネオのところからティファを救出して、館から脱出するだけだったはずが、こんな事態になってしまい、戦えない彼女をマダム・マムのところに預けてきて、本当によかったと何度も安堵していたのに…その名前が何故こんな形で最前線にいるのか。しかも、何故タークスに連れられて神羅のヘリの中いるのか。
タークスと名前に接点はないはずだ…狙われる理由が、ない。

『これ以上の投薬は危険だぞ』
『わかってるって』
『っん〜!!』

男の声に続いて聞こえてきたのは、名前のくぐもった声。おそらく、口を塞がれたのだろう。ホバリングの音で聞こえないだろうことはわかっているのに、思わず「名前!!」と名前を叫んでいた。

『とにかく、このまま起動に向かう。そっちは何とかしてくれ』
『了解、と』

どこか笑っているかのような赤毛の男の声と共に、ヘリが一気に上昇を始める。思わず名前の名前を口にするが、もう彼女の声は聞こえない。マイクのスイッチがブチリと切れる音だけが、妙に耳に残った。

「……名前っ…」

理由はどうあれ、あのヘリの中に名前がいる。それも、タークスと一緒に。俺たちに浴びせられていた銃撃をやめさせるために、タークスの連中に歯向かうようなことまでしている。一刻も早く助けなければ…そう思えば思うほど、まるで全身の血が沸くかのような感覚だった。
次々と現れる神羅兵は目障りでしかなく、一撃で急所を狙って一気に沈めた。身体に多少被弾しようが、そんなものに構うことなど出来なくて、ただただ目の前の敵に斬りかかる。フロアの神羅兵を全滅させて再び階段を駆け上がろうとした時、不意に強い力で腕を引かれて足を止めた。俺の腕を掴んでいたのは、ティファだった。

「クラウド、落ち着いて」
「俺は冷静だ」
「どこが…?」

納得していない表情を見せるティファに、俺は眉を寄せた。こうして立ち止まっている時間すら、惜しい。そう思うこと自体が冷静さを欠いているというのに、この時の俺にはそんなことを考える余裕さえなかった。
グ、と足に力を入れたところで、再びティファが腕を引いてくる。

「名前のこと、大切なのはわかるけど…こんな局面で冷静さを失ったら、助けられるものも助けられなくなる」
「っ俺は…」
「気付かないと思った?クラウドのこと、見ていればわかるよ。初めて名前のことをセブンスヘブンに連れてきた時から、ずっと」
「……………」
「本当は、気になって仕方がなかったんでしょ?名前のことは、興味ないとか、関係ないとか…絶対言わないもんね」

その言葉に思わず黙ると、ティファが掴んでいた腕をゆっくりと離した。コルネオの館で再会したばかりのティファには、まだ俺と名前の関係が進展したことは話していない。その前から同行していたエアリスにだって、まだ話していないんだ。
目の前で俺の瞳をじっと見据えているティファの言葉によって、改めて気付かされた。俺は…そんなにも前から、無意識のうちに名前のことを想っていたんだな。

「ティファ…」
「名前、絶対助けよう」

ティファと小さく頷きあって…また階段を上へと目指した。さっきまで靄がかかっていたかのようだった頭の中が、驚くほど澄み切っていた。

  

ラピスラズリ