08:見た目の変化


  

「なっ…何、これっ…!!」

目の前の鏡に映る驚きの光景に、しばらく目が離せなかった。
何かの間違いかと思って、何度も瞬きをしながら近付いたり、離れてみたりしたところで、やはり状況は変わらないらしい。
クラウドが言っていたのはこのことだったのか…と今更理解させられた。
頭の中は大いに混乱状態ではあるけれど、このまま愕然としていても何も始まらない…それは、わかってる。
だいたい、ここは一体どこなのか…
この建物に入るなり、「見てこい」とお手洗いに押し込まれてしまい…今に至る。
一瞬ではあったものの、建物に入った瞬間、中に人がいて、クラウドと一言二言会話をしていたような気もする…
どの道、このままではいられないし…

「…はぁ…」

自分を落ち着けるかのように小さく息を吐いて、押し込まれたお手洗いを後にした。
パタン、と後ろ手に扉を閉めた途端、すぐに視線を感じる。
う…と物怖じしそうになりながらもチラリとクラウドに目をやると、彼も小さくため息をついたのがわかった。

「俺の言ったことが理解できたか?」
「…うん…どうしよう、こんな目じゃ職場にも行けないよ」
「心配するの、そこなのか」
「だって…」

頼れる人は誰もいない。
あたし自身の収入が途絶えるとしたら、死活問題だ。
…まぁ…いつ元のところに戻れるかもわかってないんだけど…
ていうか、あたし、帰れるのかな…

「…本当に気付いてなかったんだな」
「そんな余裕、なかったから」

知らない場所にいる、と気付いてからあちこち歩き回っていたから、鏡を見る余裕も機会もなかった。
クラウドに指摘され、改めて目にしたあたしの瞳は見たこともない色に変化していて…
うまく言えないけど、茶色だった虹彩が金色に近くなってしまっている。
カラーコンタクトでもないのに、こんな色…間違いなく仕事には行けない。
それを考えると、また頭を抱えたくなった。
色んなことが頭の中をグルグル回っていたあたしの思考を逸らしてくれたのは、突然聞こえて来た女の人の声。

「あの、ごめんね…そろそろ、ちゃんと説明してもらってもいい?」
「あ…え、と…」
「びっくりしちゃった…クラウドが女の人を連れてくるなんて」
「そんなんじゃない」

長い黒髪の、ものすごく綺麗な人だった。
さらに、スタイルもやばい…
同性のあたしですら、一瞬目のやり場に困ってしまうくらい抜群のスタイルだ。
その時、クラウドがチラリとあたしに目をやる。
一体、この状況をどう説明するつもりなのか…

「ソルジャーだった頃の知り合い?」
「………そんなところだ」

クラウドの答えを興味津々で待っていたけど、当の本人は黒髪美女の予測にそのまま乗っかることに決めたらしい。
多分、色々面倒臭くなったんだろうな…なんて思ってしまう。
確かに、全くどこかもわからない、別の場所から来ました…なんて言えないだろうし、あたしも言葉通りに合わせることにしよう。
その時、目の前にスッと差し出された手に視線を上げる。

「私、ティファ。クラウドとは同郷の友達」
「あっ…苗字名前です。よろしく、ティファさん」
「ティファでいいわよ?さん付けで呼ぶ人なんて、ここにはいないもの」
「そ、か…」

間近でにっこり微笑まれると、何だか赤面してしまいそう…
それくらい、ティファは綺麗だった。
クラウド、こんな美人の友達がいるなんて…隅に置けないもんだな…

「…なんだ?」
「別に」

自分でも口元が笑ってしまっているのがわかる。
クラウドにはまるであたしの心の中を読まれているかの如く、軽く睨まれた。

「ティファしかいないのか?」
「うん、決起会も終わって解散。今はそれぞれの準備をしてるんじゃないかな」
「そうか…好都合だった。鏡のある場所、近くじゃここくらいしか思い付かなかったから」
「クラウドは、これからまた仕事探し?」
「そうだな…とりあえず、スラムを歩いてみて考える」

2人のやり取りは、いまいちあたしには何のことなのか、わからない。
とりあえず、黙って話を聞いていようと思う。
その時、クラウドがふと気が付いたかのように、また話を振った。

「ティファは?準備しなくていいのか?」
「そうなんだけど…今夜も店はやろうと思ってるからそっちの準備もしないといけなくて。ほら、言ったでしょ?この前の準備諸々にお金を使っちゃって、今資金不足だって。このお店も大事な資金源だから」
「…そうか」

少しの間の後、そう言って…クラウドはそのまま扉の方へと足を進める。
さっき、確か仕事を探すって言っていたから、このまま出掛ける…ということなのだろうか。
…………。
…………。
……え……ちょっと待って、あたしはどうすれば…!!
何だか、このまま置いていかれそうな雰囲気を察して声をかけようとした矢先、クラウドがふいに振り返って…

「行くところがないなら、ここでティファの手伝いをすればいい」
「え…でも、お店なんて…」
「問題ない」

えぇ…お店のお手伝いなんてやったこともないし、自信が無さすぎる。
何を根拠にそんなことを言うんだろう、この人は。
そう思った次の瞬間、クラウドは顔を背けると、さっさと店から出て行ってしまったけど…

「アンタの料理、なかなか美味かった」

確かに…そう聞こえた。
あれ?あたし、褒められた??
何となくだけど、滅多に人を褒めたりしそうにない…あのクラウドに??
びっくりはしたけど、それが本当なら嬉しいから良い方向に考えることにしよう。
そして、結局この場に置き去りにされていることに気が付いて、あたしはまた頭を抱えることになる。

  

ラピスラズリ