case2:喫茶探偵
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「警部、電話鳴ってますよ。結果出たんですかね?」
目暮警部の電話が鳴る、伴場さんのヘアブラシについていた毛髪は伴場さんの髪だと断定されたようだ。
「マジかよ!?」
「ということはやはり、彼女に探偵として雇われていた僕を愛人だと勘違いしたあなたが、そこから来る嫉妬心から殺意が芽生え、彼女が車で戻ってくるのを待ち伏せ、焼殺したと考えざるを得ませんね」
安室透は自信あり気な表情で言う。
結果が出れば至ってシンプルな話だが、DNA鑑定は一般的には99.9%の確率で信頼できる検査だ。これ以上の取り調べは本庁に戻って行うということで、高木くんが伴場さんを連れて外に出ようとする。
「いいのか?伴場、本当に店から出ちまっても」
突然毛利探偵が喋りだす。さっきまで普通にしてたのに…。いつの間に。
どうやらすでに眠りの小五郎モードに入っているようだ。
「しゃあねぇだろ、こーなったら警察で無実なのをわかってもらうしか…」
「そうか、だったらお前は犯人じゃねぇよ」
毛利探偵の推理通り、伴場さんの靴裏には安室さんが落としたケーキのクリームが残っており、事件当時伴場さんが店から出ていないことを裏付ける証拠だった。
そういえば、安室さんがさっき殴りかかってきた伴場さんを避けたとき、コナン君が伴場さんの靴裏を見ていたな、と思い出す。毛利探偵にそのことを伝えてたのか…。
「で、でもDNAは!?彼女のつけ爪に彼のDNAとほぼ一致した皮膚がついていたんですよ?
現在、同じ型のDNAをもつ別人が現れる確率は4兆7000億人に一人とされていますし、だいたい女性にはY染色体がないからすぐにわかりますよ!」
「問題のその皮膚が雨や泥で汚染され、性別の部分が不明だからほぼって言ってるだけかもしれねぇだろ?」
「だとしても、そんな二人が偶然出会い、たまたま恋に落ちて結婚しようとしたって言うんですか!?」
毛利探偵の推理に、安室さんが反論する。
「出会ったのは偶然かもしれねぇが、惹かれ合ったのは必然だと思うぜ。二人は双子だったんだからな」
「双子!?」
目暮警部と高木くんと3人顔を見合わせる。
「でも男女の双子でDNAが一致することってあるんですか?」
わたしにはそういった遺伝子とかに関しては、高校生の生物レベルの知識しかない。
安室さんがおもむろに口を開く。
「稀にあるんですよ、2つに分かれる前の受精卵の染色体がXYの場合、多胚化する際にXYとXOに分かれ、異性一卵性双生児として誕生するケースがね…彼女は低身長でしたから、おそらくターナー症候群だったんでしょう」
その後はっきりとしたDNA鑑定の結果、つけ爪についた皮膚は初音さんのものと断定。初音さんは伴場さんと、結婚を許されない兄妹であることを知って失意のまま自殺してしまったという悲しい事件だった。
許されない恋か…。今まで恋人ができたことは一度もないから想像でしかないが、もしわたしだったら…。
結婚したいと思うほど大切な人に出会うことがあったらどうするだろうと、調書を書きながら、考えるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昼下り、あの事件からちょうど一週間が経とうとしていた。今日は仕事は休み、プライベートでポアロに行くことにした。一人で考え事をするにはちょうどいい場所だ。
「いらっしゃいませー。あ、こんにちは瑠衣さん。いつものお席でいいですか?」
「こんにちは梓さん、おじゃまします」
結局あの事件で出会った安室透の詳細は何もわからなかった。事情聴取した中で、あの男の一応の現住所はわかったが本当に住んでいるのかもわからない。確認することもできたが、捜査のときに得た個人情報を私的に使うことは刑事のわたしにはできない。何よりあの場で、安室さんがわたしに何のアクションもしてこなかったことから、わたしの方から安室さんを彼だと決めつけてかかることはできなかった。
彼は安室さん同様、豊富な知識を持っていて、論理的な思考も持ち合わせており、身体能力も高い。見た目が似ているとかいう以上にこんなハイスペックな人間がこの世界に何人もいるわけない。ただ、あの時の安室さんの推理は強引で少し違和感があった。
多少引っかかるところはあるが、たぶん安室さんは彼だ。精一杯論理的に考え、そう結論付けることにした。
ただ、事件は解決しもう会うことはなくなってしまった。
お兄ちゃん…わたしどうしたらいいんだろう。
「あのー、ご注文はどうなさいますか?」
「え?」
考え事に夢中になり、声をかけられていることに気がついていなかった。
パッと顔をあげると、そこには信じられない人物がいた。わたしはとうとう考えすぎて幻が見えたのかと思ってしまった。
「あの事件ぶりですね、刑事さん」
「あ、安室さん…どうして」
「僕、毛利探偵に弟子入りしたんです。ここでバイトすれば、事件に同行させていただけるかなと思いまして」
耳を疑ってしまったが、彼はポアロのエプロンを身に着けており、冗談を言っている雰囲気ではない。
「ここにはよく来られるんですか?」
「ええ…わたし探偵事務所の蘭ちゃんと仲が良くて、ここにはよく…」
「へえ、毛利探偵の娘さんと…」
安室さんは何か考えているようだった。もう会えないかもしれないと思った人がまた目の前に現れた。これは偶然なのか、必然なのか…。
理由はよくわからないが、毛利探偵の弟子になったんならこの人は当分ここにいるはず。
チャンスかもしれない、意を決して声を出す。
「…あの、わたしがこないだあなたに言ったこと、覚えてます?」
「僕があなたの知り合いに似ているって話ですか?」
「はい。その知り合いっていうの、本当は亡くなったわたしの兄の友人なんです」
「…そうだったんですか…それで?」
安室さんのわたしを試すような表情、やっぱり自分から正体を明かす気はないらしい。
『詳しいことはわからねぇけど、ヒロとゼロは潜入捜査してるみたいだぜ』
『俺になにかあったら、ゼロを頼れ』
「わたし、探偵の安室さんに依頼したいんです。その人を探してほしい」
「!」
「彼の名前は今ここでは言えません。でもどうしても、わたしは彼に会いたい。お願いできませんか?」
安室さんはわたしの言葉が予想外だったように、目を丸くし、髪をかく。
「無茶な依頼だな…」
そう言って彼は、わたしの知っている顔で、笑ったのだ。
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