case?:ハロウィンの花嫁
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――――――――3年前―――――――――
「ここですよね?通報があったビルって」
運転していた、パトカーを廃ビルの際に駐車する。そこにはすでに所轄の警察官が数名いた。ボヤ騒ぎがあったという通報を受けて、渋谷の廃ビルの前に瑠衣は立っていた。
警察官に成りたてのわたしはまだ大きな事件に巻き込まれたことはなかった。反対に事件に巻き込まれまくっている、警察官の兄とは最近電話で話したばかりだ。一週間ほど前に警視庁捜査一課の強行犯係に配属されたと言っていて、特に米花町で事件が多いらしく「ったく、この街はどうなってんだよ…」とぼやいていた。転属してからというもの兄は4年前、友人の刑事が巻き込まれた未解決爆発事件の調査のため、今は禄に寮にも帰っていないようだった。
お兄ちゃんのことも心配だけど、今はこのビルを確認をしないと…。瑠衣は廃ビルを見上げた。
その時一台の白いスポーツカーが、パトカーの横に止まった。
「瑠衣か?」
「お兄ちゃん!?」
その車の助手席からよく知る人物がおりてくる。わたしの3つ上の兄であり、同じく警察官の松田陣平だった。
「お前こんなとこで何やってんだ」
「ボヤ騒ぎで通報があって…今からこのビルを調べようと思うんだけど…。って、お兄ちゃんは何でこんなところにいるのよ」
「俺は…墓参りの帰りだよ。この近くだろ、萩の墓」
ふと兄のポケットを見ると、数珠がのぞいていた。
そうか、明日は11月7日、萩さんの命日か…。毎年兄が同期たちと欠かさず墓参りに訪れていたことは知っていた。
でも毎年必ず命日に行っているのに、今年はなんで今日だったんだろうと思っていると、兄の乗っていた車の運転席から一人の男がおりてくる。
スラッとしていて、金髪の彼は周りの雑踏からは少し浮いているように感じた。
この人は…。ゆっくりと視線が合う。彼も視線をそらさない。
息が止まる、わたしは彼を知っている。
「…君は…松田の妹か」
「ああ、こいつも警官になったんだよ。俺の真似してな」
「…もう、お兄ちゃん!」
からかうように言う兄に口を尖らせる。でも、兄の言っていることは正しい。わたしは昔から兄の真似ばかりしていたから。
子どもの頃は女だてらに男の子と喧嘩して、怪我して兄に怒られたこともあった。
今は一緒に住んでいない兄に会うたびに思い出すのは、昔の記憶ばかりだった。
「お前ら会ったことあったっけ?」
「一度、警察学校の頃に会っただろ。夜、飲みに行った帰りに」
「ああ、不良娘の補導な」
「違うってば!お兄ちゃんみたいに、わたしは不良じゃないもん!」
「お前…昔は男相手にも喧嘩ふっかけてたじゃねーか」
「違うもん!変なこと言わないでよ!」
兄と話すと子供の頃みたいに戻ってしまう。その昔まだ兄が警察学校に通っていた頃、色々あって深夜に繁華街を徘徊していたところ、兄たちに遭遇したことがあった。その時のことを言っているんだろう。
彼が自分を覚えててくれたことを嬉しく思いながらも、ジト目で兄を見る。にやにや笑ってやがる…。
彼には子供っぽいと思われたくないのに…。
「まあ、兄妹喧嘩はそのくらいにして、中に…」
降谷がそう言いかけたとき、ビルの中から物音と、わずかに人の声が聞こえた。何を言っているかまでは聞き取れなかったが、急いだほうがいいのかもしれない。
「お前はここで待ってろ」
「え!?」
階段を登ろうとしたわたしを制するように兄が前に立つ。あまり見たことがないような深刻な顔をしているので、わたしの足も止まった。
「…その不審者ってのは例の爆弾魔かもしれない。この先は危険だ。俺たちで行く」
「ああ、そのほうがいい。松田、ヒロと伊達班長にも連絡しよう。まだ近くにいるはずだ」
二人で勝手に話をすすめ、どこかに連絡し始める。どうやら墓参りには他の同期も行っていたようだ。連絡し終わると、二人で階段を上がっていく。
わたしは現場にいた警官たちと、ビルの前に取り残されることになった。
例の爆弾魔…4年前に殉職した萩原さんのことになると兄は我を忘れる。最近はその事件の調査でずっと本庁につめているぐらいだ。自分で解決しようと思っているんだろう。
私もビルを駆け上がっていきたい気持ちだったが、おそらく新米の自分が行っても足手まといになるに決まっている。ぐっとこらえて、暗い階段を見上げる。
気をつけて、お兄ちゃん…。
ゼロ…。
なんだか最近嫌な胸騒ぎがするんだ。
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