人とは、日々進化し、更新する生き物だ。

昨日当然と思っていた事柄は、次の日全く違うものに変質することなんてざらであるし。
そも此の荒事の極みとも云えるマフィアの世界に置いては、当たり前を当然と受け止めてしまった者から死んでいくのが"常識"なのだから、心持からして誰しもが日常を疑ってかかっている。

斯く云う私自身も、昨日こうだったから明日もこうだとは当然のこと乍ら思ってなどいない。
そう、いないったらいない。
間違っても、そんな事思ってなどいない──筈だったのだが。

──可笑しいと、私の全脳細胞が今迄にない活発さで喚いている。
何にって、そりゃ其れは今私の、、、下に居る、、、、人に対し、、、、
最初は小さな違和感から始まった其れ、、は、今驚くべき速度で私の中でこれでもかと異常を訴えかけているのである。

それは何にって。
そりゃあ、そりゃ、その、あれだ。

「……っ、ぅ、……ッふ、っっ、ん、はっ、ぁ」

否、ほらあれだあれ。
前から確かに喘ぐ人だったけど。
なんというかこう、あれなのである。

「っン、っぁ、……っ、はぁっ、っ」

一寸前までは、もう一寸こう、激しかったなー?って云うか。
もう一寸こう、ほらこう、yesを連呼しそうな外国もののAVみたいな感じだったかなー?って云うか。
一周回って不健全だけど健全みたいなわけ判らん境地に達してたんだけどなって云う、印象だったんだけれど。

「んっ、……っ、ン、ッ、ひ、」
「…………」

──すげえ、処女犯してるみたい。
なんて思って、思わずマッサージを投げ出したくなった。

否犯したことないから判んないけど。
抑も私女だし、私が処女だし、んなの何云ってんだッて話なンだけど。
否でも然し此れはあれだ如何だ何だって云うか、マジで如何したの中原様。

確かにもう一寸声抑えて欲しいな、だなんてことは何回かちらほら願ったりしたことはある。確かにある。
だけれども、真逆過ぎると云うか、こんなメタモルフォーゼは誰も望んで無かったと云いますか。

「……っ、ぁ、ひぃ、っん」
「……、………!」

──あ え ぐ な よ。

否もう、本当に、そんなに耐え忍ぶように喘がないで欲しい。
と云うかマジで妙な艶っぽさ出さないで欲しい。

本気で中原様一体如何したというのか。
ちょっと前まで"洗脳完了即落ち二コマの姫騎士"みたいな喘ぎ声だったのに、なんでそんなに"初めての初夜にドッキドキ、心も躰もハツモノ初心なお姫様"みたいな喘ぎ声にシフトチェンジしてしまってるの。
マジで何があった、恋でもした??

しかも前はさあ好きにしろと云わんばかりに全身を投げ打ってくれてたのに、なんで今は一寸緊張気味なのだろうか。
手が触れる度に"ビクンっ!"みたいな過剰な反応されるとこっちも本気と書いてマジで如何すればいいのか判らないって云うかまっじで困る。
本当にもう、なんか悪い事してる気分になってくる。非常に居たたまれない。

「……ど、何処か揉み足りないとことかって、ありますか?」
「………、」

なんかもう、ひたすらに気まずくて。
異常な程の背徳感に、いつもなら余り聞かないようなこと迄うっかり聞いてしまう。

否もう、本当に、こちとら大混乱なのである。
本気で此の人は私を如何したいのって思ってしまうレベルで、エロさの方向性が変わってる。
これだったらまだ前の喘ぎ方の方が逆に健全だった気がしてしまうくらい、今はもう、ガチ、、でどすけべ。
どすけべと云う表現が似合ってしまう程に、本気でもう、凄くどすけべ。

──中原様のこんな声が万が一でも誰かに聞かれてしまったら、今度こそ私の噂はとんでもないものになってしまうのではないだろうか。
なんてことを、割と真面目に本気で思ってしまう程度には、此の嬌声は一寸あれだ。生々しい。
もう本当に私如何したらいいのって、女の癖に初体験に暴走する童貞みたいに空回ってしまいそうだ。

──いや何云ってんだろ。
私処女。性別的に処女。
落ち着いて私処女。
ああ〜〜ダメだ〜〜落ち着けない〜〜。

なんて、頭の中が宇宙の神秘に包まれていても。
然し悲しいかな、最早職業病とも云える程躯に染み付いた動きは、そりゃもう的確に中原様の躯を責め立ててしまってる。

──いや責め立てるってなんだ。
こちとら真っ当に仕事してんだぞ。
なんだ責め立ててるって。
厭だ自分の言葉のチョイスが終わってる。

最早暴走列車な自分の思考回路に一周回って無表情になっていたら。

ふいに、もぞりと顔を動かした中原様は、酷く繊細な動きで顔を少し横にして。
厭に色っぽい仕草の儘、そりゃもう熱っぽく濡れる眼差しを此方に差し向けるのである。

その様は、正しく純と不純の入り混じる恥じらい、、、、そのもので。
ついでにはらりと被さる其の髪も相まって、林檎の様に熟れるまなじりは異様な艶色すら含んでる。

──いやもう、この御仁、如何いう方向性狙っているんだ?
あんまりな視線に、思わず少しぎくりと躯が身構えれば。
然し私を見詰めた瞳は伏せる様に閉ざされてしまう。

それが更に、何故だか私の心を騒ぎ立てて。
此方から何かまた声を掛けた方がいいのかと、私に思わせるのだけれども。
然し中原様は、暫く置いたのちに、また少しずつ其のつやりとした唇を動かしていくのだ。

迷い迷いに引き結ばれた唇は、とろりとほぐれる様に形を弛ませていって。
厭に勿体ぶる様に、ゆるやかにひとつの形を結んでいく。

「──………ぜ、ぜんぶ、その……きもちぃ、から」

だから、もっと遣ってほしい。

そう云って、最後にまたちらりと私を見て。
其の儘中原様は、もぞりと動いて其の小さなお顔をまた下へと戻してしまった。

だから今私の視界に映るのは、さらけ出された背中と、じわじわと色づいていく赭色の髪が張り付く項。
つぅ、と汗の伝う、熟れた果実のような、項だけ。

「……………」

そんな中原様を無言で見詰めて。
手のひらはいつもの通りに動かした儘、然しそれでも、私の視線は其の項から自分の手元へと流れていく。

──────うぉう。

何と云ったらいいのか、判らない。
何と表現するのが相応しいのか、判らない。

だけれども、確かに伝わる──いわゆる、"色気"という奴に。
所詮耳年増な私は、為す術もなくつられて顔を染めてしまうのだ。

だって、なんつー声を、出してんだ!