体温

この時間を施しだと思ったのはいつだったか。
きっかけが叶わない想いを抱いた手塚先輩のことだったために、憐れんだ私への慰めと思ったからなのか。それとも、ただこの行為が快楽を与えてくれるからなのかはわからない。ただ今でも、これは王子様からの施しなのだと思っている。ただ過ぎる甘やかな時間。唇にキスを与えられたことはなく、王子様が気持ちよくなるわけでも無い。ただ触られ、下僕が善がることを王子様が楽しんでくれる。
そんな夢のような時間。

「お尻が持ち上がってる。気持ちいいんだ」
「ふ、はぁっん!」

ぴりぴりと背中を快楽が走る。夕食をうちで食べたいと言った周助に晩御飯を用意して、一緒にテレビを観て、食器を片付けていた時にやってきた例の時間。ブラは既に持ち上がり、Tシャツの中で蠢めく手。周助は乳首を焦ったくなるほど優しくやさしく撫でる。たまに爪でちょん、と押す。

ぎゅっと後ろから周助が私を抱きしめ、いつものように耳たぶを舌がなぞって、噛んだ。耳と乳首への刺激で動かないことなど到底無理で、いやいやと首を振りながら啼く。周助ももう性器を大きくさせており、何度もお尻に熱いものがぶつかった。

「たったこれだけで気持ちいいの?わがままでえっちなんだから」
「ふっひゃあっん!ご、めなさっ」
「ふふ、うん、いいよ。だからほら、こっちにおいで」

周助が腕を広げて、飛び込んでくることを待っている。正面からぎゅっと抱きつくと、よく知った匂いや体温にほっとした。安心できる胸の中。唐突に持ち上げられ、驚いて首にしがみつく。ふくらはぎに力を込めると、そんなに固くならなくても落としたりしないよ、と甘い声が囁いた。

ソファにゆっくり落とされると、上から被さってくる優しい影が額にキスをする。本当に、王子様みたいだ。
するすると服を脱がされる。周助は私の裸を何度も何度も辿るように見る。新しい傷が増えていると、これはどうしたの?とそれを指先で柔らかく撫でながら聞くのだ。肩と首の境目を噛みつかれ、歯が薄く皮膚に沈む。緩いそれが気持ちいい。

「ほら、持ってみせて」
「や、これっ!」
「嫌じゃない。ボクに、見せて。それに何度ももう見てるでしょ?いまさらだな」

ひざ裏を抱えるように誘導される。やはりこの姿勢は蛙のようだ。秘所を丸見えにさせられるこの格好は、いつも恥ずかしい。

「もっと大きく広げられるでしょ?本当はここも、指で自分で拡げて中までよく見せて欲しいのに」

周助はそう言いながら陰唇を撫で回していて、そんなのは無理だと思って首を振った。

「や、周助っ」
「ふふ、どうせあとで見るのに。いっぱい舐めて触って、気持ちよくしてあげる。だから、待ってて」

既にぐちぐちと濡れた陰唇をさらにひと撫でし、周助は本当に人の唇にするように、そっとそこにキスを落とす。唇を合わせるように角度を変えて優しく何度も。シャワーも浴びていないそこは汚いはずなのに、恥ずかしいのと触ってもらえて嬉しいのとで頭が沸騰しそうになる。ぴくん、と腰を浮かせるともっとと強請るように周助の口に秘所を押し付けてしまう。周助は苦しいよ、と言いながらわらった。

「足の爪、あとでペディキュアでも塗ってあげようか。ちょっとカサカサしてるよ」
「んっじぶんで、やる」
「そう?」

甘やかしてくれるのは今だけなくせに、周助はそんなことを言いながら足の爪を撫でた。硬い手がきゅ、と足裏を強めに撫でながら、指の一本一本を口に含んで味を調べられる。指の間の柔らかい皮膚も性感帯らしく、そこを舌先でなぞるように強めに刺激されるとすぐに気持ちよくなってしまう。最後に爪を柔らかく噛んで離すと、銀糸がつたった。

「すっかりここでも感じるようになったんだ」
「んんっあっ」

感心したような溜息を零して、足を太ももまでゆっくり撫でさする。ちゅ、と仕上げにするように足の甲にキスを落として。

「ん、これ体育でできた痣だっけ。だいぶ、治ってきたね」

ボールが当たって青くなった痣に、丹念に看病する猫のように舌を這わされ、こぽりと愛液が零れ落ちた。それを見て、周助はおかしそうにふふ、と笑う。これ以上舐められるところなどないほど慎重に足の皮膚を舐めて軽く吸われたころ、私は既に何度か耐えきれず軽くイってしまっていた。周助はその度にダメじゃないか、と言葉を強請らせる。

「ほら、まだここ触ってないよ?だからダメだって言ってるのに」

彼はきゅ、とクリトリスを軽く押しつぶす。力が抜けていた私の手を固定して、ぐっと持ち上げ直す。膝立ちした周助の口に秘所を捧げるように姿勢を修正された。首が苦しいのに、どきどきする。本当に供物のようで。

「びちょびちょ」

あえて言葉に出して辱めて、指を二本ゆっくりと入れて、中を開いて観察するように見る。真っ赤、と呟くと毛を掻き分け秘所を食む。

「やっだあっしゅうすけっも、」
「ほら、逃げないの。匂いつけてるんだから」
「にお、い?」
「うん。どうしてボクが、いつもこんなに舐めたりしてるんだか、わかる?」

名前はそんなこと、一度も考えたことないでしょう。ふふ、とおかしそうに周助は笑う。笑いながら、クリトリスを摘んだ。ひゅう、と嬌声にもならない声が漏れる。

「他の男に牽制してるわけでもないよ。ただ、名前がね」
「んっ………や、はっやあ」
「何だか嫌な予感がするから、そろそろ潮時かもしれないね」

ぽつんと、周助はそう一言呟いた。

そしていつも通り、じゃあね、と口にして終わらせるのだ。この施しの時間を。

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