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バイト先にまさか柳が来るとは思わず驚いた。柳も知らなかったようで一瞬驚いた顔をしていた。
なんとか平常心を保ちながら他のバイトスタッフや店長に4名様でーす!と明るく知らせる。お冷やおしぼりを用意し、席に向かった。
今日ホールスタッフなんでわたししかいないんだよ。いや空いてるからだけどさ。店長呪う。

メニューを眺めているのは柳を含めやや個性的な男子4人だ。辛子色のジャージを持っているところを見るに多分テニス部の仲間なんだろう。
青みがかった波打つウェーブの髪の男性は見覚えがある。ユカの語っていた幸村様だ。近い距離で見ても神々しいというか、彼には独特な雰囲気がある。優しげな面立ちなのに、存在感があるのだ。悲しげなストーリーでも抱えていそうな存在感である。この前柳と試合していたのも彼だったはずだ。
いやしかしイケメンだ。薄幸の美青年とは彼のようなひとのことを指すのだろう。

「ご注文はお決まりですか?」

男性はすぐにメニューが決まる傾向があるので、水を置くなりそう訊いてみる。

「その前に聞きたいことがある。これは何の建物だ?構造が珍しい」

厳しい顔つきで話しかけてきたのはイケメンなのにちょっと老け顔の男性だ。イケメンなのに。勿体ない。
こんなひとテニス部にいたっけな。まあテニス部なんだろうけど。

「昔の銀行なんです。後ろに保管庫として建てられた蔵も現存してますので、よかったら帰りにでも見て行ってください」
「蔵か。珍しいな」
「この辺では珍しいですよね。あの螺旋階段も昔のまま残っているもので、パーティーで当店を利用される方には喜んでいただいています。貸し切りにも対応していまして」

この店の道路反対の右端、つまり入店する扉から一番奥に見える位置には木製の螺旋階段が設置されている。それがとにかくアンティークでオシャレでかわいい。飴色の手摺は洋館独特のもので、女子が好きそうなデザインをしているのだ。ウェディングの二次会なんかでとても喜ばれている。
登った先は中二階で、記念日で予約してくれたお客さんなどに特別に用意する席だった。かわいらしい丸テーブル一席のみである。
昔の人が何を考えてこの建物をそんな作りにしたかは分からないが、何処と無く重たくてレトロ可愛いこの建物をわたしはとても気に入っている。

「あとで登ってみても構わないかい?」
「ええ、構いませんよ」

幸村様はこんな声をしていたのか。アルトボイスで綺麗で、螺旋階段に目を輝かせる様子は女子にしか見えない。
みな揃ってステーキセットを頼み、ハーフなのか肌が黒っぽい男性だけは通常食事後のコーヒー先出しということだった。

「店長〜」
「はぁいー?」

柳もステーキセットを頼んできたのだが、彼は薄味のものが好みのはずだったことを思い出した。この店はやや味付けが濃いので、柳の好みとは違うと思う。

「ステーキセットのタレ、いつもこっちでかけちゃってるじゃないですか。ココットに入れて、お客さんが自分で調整しながらかけられるようにして貰えません?」
「ん?いいけどなんで?」
「はあ、さっきの客ちょっと知り合いで…」
「え?まじまじ?あの人ら結構イケメンじゃね?4人だよね?どの人と知り合いなの、ねえ」

ワクワクと声を弾ませキッチンから身を乗り出した店長を見た栄君がぼそっと呟いた。

「店長きも」
「おい栄、表でろや」

怒涛の勢いで質問してきていたゴリラ顔の店長はバイト仲間の栄くんに任せ、コーヒーの準備をする。ここでバイトをしだしてから、わたしはコーヒー党になった。
コーヒーマニアの店長は豆を自分でブレンドして焙煎している。夜中まで仕事をしている社畜なのに、いつそんなことをする時間があるのか不思議で仕方ないがこれが美味しいのだ。焙煎から先の、豆を挽いてドリップするのはわたしたちバイトの仕事だ。
ランチはさすがに手が回らないため機械任せだが、ディナーは出来るだけハンドドリップするようにしている。くるくるとお湯を回すようにいれると、コーヒーのいい香りがする。

その頃合いでそろそろと店長が、やはり隠し切れない好奇心を目に浮かべ、質問し直してきた。

「名前ちゃん知り合いってどの人?ねえ!それとも全員?やるねえ」
「店長女子高生ですかテンションがちょっとおかしい」
「気になるじゃん」
「これ以上首突っ込むと店長がパチンコで5万すったこと奥さんにばらしますよ」
「普通にひどい」

メソメソと泣き真似をする店長の奥で、栄くんが手際よくお皿を並べているのが見えた。店長仕事しろ。

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