「このブレンド…ブラジルとグァテマラか?あと…」
ジャッカルがすん、と鼻を鳴らしそう言うと苗字がよくわかりましたねえ!お客さん詳しいですねえ!と反応する。普段の彼女はあまりに面倒くさがりで動かないため、こいつにアルバイトが出来るのだろうかと疑問に思うことも常だったのだが、なかなかどうして上手くやれるらしい。接客が板についていた。サロンエプロンを巻いているせいか普段より背筋も伸びており、動きや判断もてきぱきとしている。客が呼ばないような時間では仕込みを手伝っており、家でもそれくらいきちんと動いて料理をしてくれと思わなくもない。
結果として、来てよかったと思える非常にいい店だった。
内装が落ち着いているのは勿論のこと、料理の味もいい。また男性向けに量を多く盛り付けてくれるサービスもあり、白米のおかわりが自由らしく弦一郎は2杯おかわりをした。ジャッカルが早々に飲み干してしまったコーヒーカップを見た苗字が、ディナーだけのサービスなんですけど、と付けながらもコーヒーを継ぎ足しておりジャッカルも喜んでいた。
「お料理どうでしたあ?」
大きな熊のような体の男が厨房から空いた食器を下げに来る。彼が料理長らしい。苗字はもう一組店内にいた客の対応をしておりここにはいない。
「いい味でした」
「また来ます」
精市が笑い、ジャッカルは喜びを噛みしめるような口調でそう言った。ここに来たいと言っていたのはジャッカルだったため、いい店を見つけられたのが余程嬉しかったらしい。
「いやーよかったです〜。是非またのご利用お待ちしております」
にこにこと人の好さげな笑いを浮かべながらその男が皿を持ち上げていると、テーブルの俺の前で手が止まる。不審に思うと彼はおや?と疑問を顔に浮かべていた。
「ソースはお気に召しませんでしたか?」
「ああ、いや、そんなことは。ただ味が薄い方が好みなもので」
申し訳ない、と言うと合点がいったようにそうでしたか、と料理長は口にする。他の3枚の皿が何も残さず綺麗になっていたため、余計に俺の目の前の皿に残ったソースが目立ったらしい。
「普段はそのまま、厨房でソースをかけているんですけどね」
「そうなんですか」
「ええ。あのバイトのね、女の子が今日はソース別で出しましょうって言ったんですよ。ちょっと髪色は派手だけどかわいいでしょう。連れて帰ってもいいですよ、あはは」
料理長の男が笑顔で接客していた苗字を顎でしゃくって示す。
そして全てわかっているような見透かした笑いで、彼は厨房へと帰っていった。
弦一郎が女性に対してそれは失礼ではないのかと口にし始めたのを、冗談なんだから受け流せとジャッカルが窘め始めたところで、精市がにやにやと笑う。
「へえ、蓮二。持ち帰っていいって」
「精市」
「ちょっと軽そうだけどかわいいんじゃない?どう?」
「どうと言われても返答に困るが」
「困るんだ」
精市は依然おもしろそうに口の端を歪めている。ジャッカルはそんな精市に慄き、弦一郎はよくわかっていない。
ジャッカル以外の食後のコーヒーを運んできた苗字の顔が上手く見られない。ここでどんなに表情を殺しても、視線を向けただけで精市に勘繰られそうだ。
そのコーヒーはよく知っている味がした。たまに苗字が機嫌のいい時に淹れているコーヒーの味だ。ここの店のものだったのか。
隣の友人からの伺う視線が鬱陶しい。
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