ゲラゲラと大きな笑い声が響く駅前の居酒屋。食べ物や煙草の匂いが空気中に充満している。
掘りごたつの上でおつまみのポテトをつまみ齧りながら焼酎を飲んだ。芋焼酎にポテトの組み合わせうまい。
「あいつクソまじムカつくんだよクソが!犬かよぉ!犬小屋買ってきてやろうか!ああ?!」
「涼ちゃん、一旦落ち着いて飲むのやめようか。つーか涼ちゃん吐きそうじゃん顔色末期じゃん」
「涼さんのキレ芸すき」
「おい、佐藤も笑ってねえで一緒に止めろ」
安い飲み放題コースでちゃんこにしたせいか、隣に座る涼ちゃんは既に呂律が回っていない。涼ちゃんの細すぎる手から梅サワーを取り上げてテーブルに置くと、涼ちゃんが嫌がってむずがった。
テーブルを挟んで斜向かいに座る豹柄のジャケットを着た佐藤は面白そうにそんな涼ちゃんを眺めており、目の前の席に座るピンクのツインテールの美少女も涼ちゃん、すき、と夢見がちな瞳で呟いた。どいつもこいつも使えない。
立海大の手芸サークル同期は全員個性が強すぎるのだが、みな面白くつい全員で絡んでしまうと度肝を抜く絵面になる。
ピンクツインテールの紗倉は服装もロリータに近く、かつ通学するのにランドセルを背負い、懐かしの白上履きで出歩く猛者だ。
佐藤は豹柄が大好きなこれまた美少女なのだが、いかんせん口からは悪口しか出ない。ガリガリにやせ細っていて、スキニーパンツを愛用している。パンク系の雰囲気だ。ピアスも大量に開いていて、次は臍に開ける予定らしい。
涼ちゃんは寡黙で黒髪、性格は非常に病んでいて破綻気味、おまけにいつも全身蛍光カラーのコーディネートで、普通の格好をすれば一番普通に見えそうなのだが本人にその意思はないらしい。
本気でキレると英語が出てくる帰国子女でもあるのでまるで漫画の登場人物のようだった。意味がわからない。
よってこの3人が並ぶと、ザ、派手、を体現していて、一緒に行動するとこれ以上ないほどに目立つのだ。
先程まで涼ちゃんの彼氏の食べ方の汚さの件について愚痴を聞いていたのだが、涼ちゃんは酔いすぎて色んな話題を行ったり来たりしている。というか、吐きそうに見える。
しかし佐藤と紗倉は酔って饒舌になった涼ちゃんが見たいため、いつのまにか、わたしが席を立った時になど追加でお酒を注文しているので始末に負えない。しかもまた別の種類の酒を頼んで、余計に涼ちゃんの胃の中を攪乱させようとしているようだ。
わたしもなかなかにメンヘラ極まっている自覚はあるのだが、この4人の中に入ると調整役というかツッコミ役に回ることも多く、もしや常識人なのではと思ってしまうことも多かった。
「この中にいるとわたし超凡人」
ぼそりと思わず本音が出ると佐藤がはあ?と疑問満載という顔をした。
「名前は赤い髪な時点で目立ってるからな?それにクソビッチのメンヘラじゃん」
「佐藤の口の悪さよな」
「つーかめっきり男の話聞かないんだけど名前の精神状態大丈夫?最後の男はなんだっけ、チンコがクソ小さくて入ってもわかんなかった男」
「その通りだけど佐藤が言うとほんとパワーワードが凄いからやめてくれ」
いつだったかそんな男もいたなと思い出す。
わたしが男遊びしてないのは、いつからだっけ。そうか、柳をうちのアパート前で拾ってからだ。
もしかして、わたしはいつの間にか。柳に。
「ねー」
「なに紗倉」
「涼ちゃんがしぬ」
「えっ」
涼ちゃんを見ると真っ青な顔で口元をおしぼりで抑えている。慌てて彼女を抱きしめてトイレまで運んだ。涼ちゃんも身長が小さくて拒食気味なほど痩せているので、こういうときばかりは運びやすくて有り難い。足のつま先はやや引きずってしまったが。
あばばばばと胃の中のものを吐き出しはじめた涼ちゃんの背中をさすっていると、後ろから銀髪のチャラそうな店員さんが「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。
しかし彼の目はなに店で吐いてくれとんじゃと言っていた。というか実際にボソッと言ったな。店員さん迷惑かけてごめんなさい。本当にすみません。きちんときれいにして消臭してから出ますのでお許しください。
前 | 次
top