窓辺の角席に座る美青年。
小振りなコーヒーカップを片手にガラス窓の外に視線を向ける様子は、店内のレトロな様相も相まって、幻想的な一枚の絵画のようだ。伏し目がちな瞳はなにかを憂いているようにも見える。額縁の中におさめたらさらに美しいに違いない。
視線が合うと彼はふ、と笑って、ちょいちょいとこちらを手招きした。これまた上がった口角の美しさたるや。顔がいい人類ずるい。何しても可愛いし綺麗って。許さない。
幸村様とジャッカルがバイト先の店に来店したのは、土砂降りの雨の日だ。
ジャッカルは初来店以来ヘビーに通ってくれている常連さんと化しており、すっかりタメ口で話せる仲になってしまった。彼はコーヒー党のようなので、ランチタイムに来店してもつい気にしてコーヒーをサービスしてしまう。本当はダメなんだけども。
今日は雨足が強すぎるため、駅直結などの好条件が全くない店内は閑散としている。
幸村様の来店は2回目だったはずだ。いつもこんなスカスカなわけじゃないんですよウチも。ランチはたまに並ぶくらい混んでますからね。
「どうかされました?」
まだ初対面に近いため、というかわたしの存在を覚えていない可能性も高いため外面よくニッコリ話しかけると、既にわたしの口の悪さを知っているジャッカルは砂でも吐きそうな顔をした。失礼だな。
「きみ、柳の親戚なんだって?」
「え、マジか」
「ジャッカル、耳が遅くないかい」
幸村様は驚いたジャッカルにあきれた様子で言うと、ジャッカルはまじまじとわたしを見る。柳と共通の部分を見つけようとしているようだ。
「え、似てねえ」
「はとこくらい遠縁だったら似てなくてもおかしくねえだろがハゲ」
「ハゲてんじゃねえ、剃ってんだよ何回言わせんだ」
反論してきたので椅子の下にあったジャッカルの長い足を蹴飛ばすと痛え!と彼が悲鳴をあげる。
お客様だけどもうお客様扱いはしない域になっていたためフフ、と悪人ヅラで笑ってしまった。ジャッカルは優しいので恨めし気な顔をするだけだ。まったく良い人がすぎる。
「柳がきみと親しいと聞いたんだけど、きみって柳のタイプじゃないね」
「柳のタイプとか知らないけど、そんな末恐ろしいタイプにはなりたくないので嬉しいです」
「そうかい?」
幸村様がかすかに小首を傾げた。マジ美人。なんなのこの人。モテそうだけど隣に並ぶ女の子は自分の美と戦うことになるだろうと、知りもしない幸村様の彼女に勝手に同情した。彼氏の方が綺麗ってちょっと落ち込んでしまいそうだもの。
それにしても柳の友人たちの間で一体どんな噂が立ってるんだ。親しいとか好みのタイプとか。
さては、噂を流したのはあのモジャモジャ頭の後輩だな。わたしが会った覚えのある柳の知り合いといえば彼くらいしかいないからである。
「うーん、そうか。それじゃあ、デザートでも追加で頼もうかな」
「かしこまりました〜」
「きみのバイトが終わるまで待ってるからさ、この後飲みに行こうよ」
ぱらぱらとデザートメニューを捲る幸村様に有無を言わさない口調で立て続けにそう言われ、口を噤む。え、すごい嫌だ。なんか怖い。幸村様は美人なんだけど嫌な予感しかしない。眼福ですね行きましょうって喜べないのはなぜ。
そして幸村様誘い口調が軽すぎてビビる。
「幸村、そういうことなら俺は帰るぞ」
「ジャッカルも一緒に行くんだよ」
「なんで俺を道連れにするんだよ。何をしようとしてんだよ怖えよ」
「わたしもこの後予定が入ってるので無理ですね」
「この雨の中二人ともどこに逃げようって言うんだい?」
にっこりと笑う幸村様は迫力があるのだが、こちらも負けてはいられない。何なのかはよく分からないが身の危険を感じる。
ジャッカルは諦めたような息を漏らしたが、わたしは銀のトレーを抱きしめながら伝家の宝刀を出す。
「ストーカーですって言って警察呼びますよ」
「おや、俺がきみみたいな子を狙うように見えるのかい?そんなに偏食じゃないよ」
「遠回しにブスって言ってるだろ」
「苗字、諦めろ」
「ジャッカルは黙ってな」
バイト仲間の栄くんをキッチンから引っ張り出し、この後彼とデートだと嘘をついてみたものの栄くんにお前とカップルなんて御免だと即座に言われ嘘がバレた。
おお、どうしようどう逃げたらいいんだ。幸村様のあの強制力のある笑顔が怖い。
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