早朝、勝手に目が覚める。
頭が痛かった。そして猛烈な吐き気。
慌ててトイレに駆け込みげえげえと吐瀉していると、柳も起き出して呆れたように「馬鹿だな」と、いつも以上に冷ややかな目でわたしを見おろした。確実に馬鹿で申し訳ない。
上下寝巻き用のジャージ姿で立っていても姿勢がいいせいか、しれっと様になっている柳にどうしようもなく苛ついた。こちとら吐いてる気持ち悪い女だぞ。100%自分のせいなんだけれども。
八つ当たりにぺちんと彼の腕を叩いてはみたものの、気持ち悪すぎて力があまり入らない。なんだか視界がグルグルする。
布団の中に潜り込んで踞る。人生初の二日酔いだ。こんなに辛いものだったのか。
頭が痛いどころの騒ぎではない。目が回るのが何よりキツイ。
「水くらい飲んでおけ」
とん、と背中あたりに衝撃がおちる。モゾモゾ布団から顔を出すと、グラスに入った水と柳の無表情。
「さんきゅ‥」
「何故そんな風になるまで飲むんだ。俺には理解できないな」
「何故でしょうね‥ハハ‥」
呆れた様子ではあるが、わたしを見捨てているわけではないらしい。背中に手を添えられ、上半身をやさしく起こされる。冷たい水を一気に飲むと、頭が少しスッキリした気もする。気だけかもしれない。
柳はそんなわたしの様子を見ながら、溜息をついた。ゲロくさいだろうし本当に申し訳ない。
「苗字は今日、午後から講義が入っていたな」
「その通りでございます‥」
「自己責任だ。休むなよ」
「はへえ‥」
この体調でずるずる大学に行く自分の姿はさぞかし滑稽だろうなあと、全てが憂鬱だ。
吐き気をこらえながらうなだれる。
「ドラッグストアが開く時間になったら薬を買って来よう。あとおかゆ程度なら食べられるな?」
「作って下さるんですか‥」
「お前はいつも手がかかるな」
くしゃりと大きな温かい手が、頭を撫でる。
柳は珍しく、じ、と糸目を向けてきた。眼球が見えない為視線が合っているかは分からないのだが、多分見られているのだろう。居心地悪くなに?と身をよじって聞くといや、と柳は首を戸惑ったように振る。
変なの、と思いながらもわたしも余裕が全くなく、寝ようと目を閉じる。頭を撫で続けてくる柳の手はあたたかすぎなくて、気持ちいい。ちょっと安心するかもしれない。
再び目を覚ますと、11時を回っていた。
柳がドラクエのサントラを薄くかけながら課題をやっている。ピンと伸びた背中。そういえば最初に柳を見たときもドラクエの悪役みたいだと思ったんだよな、とふと思い出し笑いを堪えていると、柳がこちらを振り向いた。
「起きたのか。頭痛はどうだ?」
「ちょっとましかも、」
う、と口を塞ぎトイレに駆け込んだ。ダメだったわ。全然駄目だわ。
柳はそれこそ最初に見た汚物を見るような顔で薬を差し出してくる。反抗することなく薬を飲んだ。
ありがとうございます柳様。
柳はどうやらおかゆを作ってくれていたらしい。
器に入れて用意してくれるというので、キッチンに立つ彼の周りをウロウロとしながら褒める。
「柳はいい夫になるね」
「阿呆なことばかり言うな。具はどうしたい」
「たまごとシャケと梅干し‥」
「鮭はないからそれだけは諦めろ。食い意地も張っているな。その調子なら問題ない」
「そうですね‥」
柳は器用に溶き卵を落とした。横顔が綺麗で、鼻筋がすっとのびているなあと今更な感想を抱く。
我が家の貧相な安いお皿でも彼は几帳面に食事を盛る。黄色が散らばるほかほかの綺麗なおかゆの上に、ちょんと赤い梅干しが乗っている姿は広告にも使えそうなくらいきっちりとしていて、インスタに上げたいくらいだ。インスタ見る専だけど。
「柳さん、美味しいです‥ありがとうございます‥」
テーブルでちょこちょことスローペースにおかゆを口に運ぶと、向かい側に座る柳はふ、と柔らかく笑った。
実は午前中に柳は講義があったと知るのは、その後のことだ。
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