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いつのまにか追加されていた連絡先。幸村様とジャッカル君のものだ。
正直連絡先を交換したことなど記憶になく、微塵も覚えていないのだが、今は彼らの連絡先を知っていたことを助かったと思う自分がいる。

焼肉会という謎のネーミングのグループに、困った相談を押し付けた。

(ねえ柳が変なんだたすけて)

柳と知り合いであるとバレたからにはどうでもいいかと、関係があることを知っている人を彼らしか知らないのだからと思い切った相談だった。寝転がりながら眉を顰めて文字を打ち込んでいく。

最近どうも柳が変だ。妙に優しいというか、やっぱり何か企んでいるんじゃないだろうかと訝しく思っている。
料理はわたしの好きなものがよく並んでいるし、髪の毛を引っ張る暴力的な起こし方も減ってきた。ぐーたらと姿勢を悪くしていても小言も言わない。
しかもつい先日のことだ。夜、バイトから帰宅したとき。

「ただいま!お腹空いたなーっと」
「カレーが食べたいと思っているだろう」
「え?は?え?」
「今用意しよう」

何 で わ か っ た ん だ。テレパシー?超能力かなんか?異星人?どっか別次元から送られてきた刺客か何かなの?思わず頭の中に宇宙が広がり動揺してしまった。
前から聡い聡いとは思ってはいたけどその域を超えているというか、聡すぎるのだ。わたしが言いたいことを先回りするような言動も多くなってきた。

色んなこと(一緒に住んでいることは口が裂けても言いたくなかった)を包みつつ、最近考えを先回りされすぎていることや、妙な優しさを見せつけてくることなどを伝えてみると、幸村様からは大量のうさぎのスタンプが送られてきた。可愛いけどそうじゃない。
一度しかまともに話したことは無いが、幸村様はあの爽やかな微笑みを浮かべながら画面の向こうで面白がっているのだろう。こちらは真剣に悩んでいるのだ。毎日柳と一緒にいるのだから。

(蓮二、絶好調じゃないか)
(今までの柳がどんな印象だったのか気になるんだが‥柳はもともと人の言うことくらい予測してただろうよ)
(はあ?なにそれ柳って人間やめてるの?)
(親戚なのに何で知らねえんだ。あいつはデータマンだろ)

以前の柳はどこにでもノートを持ち歩き、初めて見聞きしたことはノートにすぐメモするような変態だったらしい。そんな人間がいたら困る。お近づきになりたくない、いっそ気持ち悪いと言ってもいい。
しかしデータテニスというスタイルのテニスをするらしい柳は、些細な状況からも知り得たデータを積み上げどうでもいいと思える事柄も点と点を繋げて、相手の対策を練り弱点を研究しつくし、対戦相手に勝利するというプレイスタイルらしい。
普通に怖い。
そしてその身体能力の高さも相乗効果になって、柳はテニスが強い、ということらしかった。

そうそんなこんなで日ごろからデータマンである副産物なのか、彼は身近な人であれば次その人がどんなことを言いどんな行動をするか予測出来るらしい。
怖すぎるだろう。ホラー映画かよ。

(もしかして引いた?)
(や、引くよねどう考えても)
(柳にあとで怒られっかな)
(事実を教えただけで怒ったりしないでしょ)
(今の蓮二にとってはどうだろうなあ)

わたしがあまりにも柳のことについて知らないとみると、2人揃って畳み掛けるように柳のことについて教えてくれた。
書道や茶道がうまいこと、社会情勢に詳しいこと、将棋なども得意なこと。好きな映画監督など。
どうでもいいよそんなの、と思う気持ちが大きいのだが、不思議と柳について知れて嬉しい気持ちもある。
柳は蘊蓄には饒舌なくせに、率先して自分のことについてわたしに話したりしない。でもそれはわたしもそうで、深く関わらないのはいつの間にか出来上がったお互いの暗黙の了解のようなものだった。
わたしと柳は勿論家族でも恋人でもない、おそらく、親しい友人ですらない。自分の悩みや思いを打ち明けたり相談したりしないのだ。わたしは柳について大したことは知らないし、反対に柳もそうであるはずだった。わたしたちは近しいようでいて、その実真っ赤な他人だ。

でも、本当は知りたかったのかもしれない。


いつの日かアパートの前、ずぶ濡れになりながら座り込んでいたジャージの青年について。世の中に絶望しきったような、陰鬱なものを抱えた青年。
拾った時はただの興味だった。その傷が癒えるまで、ただ居場所がないならここにいたらいいと、ただそれだけだったのに。

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