決めていたはずの日々のルーティンが、いつのまにか壊れかけていた。
自室にいることが息苦しい。夕刊を触る手もそぞろになる。目が活字の上を滑った。
何故。
分かりきった理由に向き合うことも出来ずに、椅子の上で天井を見上げて目を閉じた。
俺は何をすればいいのか、これからどう生きていきたいのか、俺は一体どんな人間だったか。
コチコチと静かに時を刻む音がする。
毎日必要だと思ってしてきたことに、何の意味があっただろう。分からない。何も出来ない。俺には何もない。
テニス部に居てはならないような人間なのに、テニスを手放すことも捨てきることもできない。あそこは確かに俺の居場所であり、全てだった。大切な仲間たちに囲まれて過ごした青春が。
綺麗に並べてある、壁一面の棚に収納された今までとってきたデータを書き留めたノートに触れることは出来なくなった。頭の中でデータをとっても、メモを取ることなど最早出来ない。しないのではなく、もうすることが出来ないのだ。持ち歩いてこそいる、真新しいノートはまっさらなまま。
外はいつにない大雨だ。フード付きの撥水のジャージを着て、外に飛び出した。
ここではないどこかに逃げたかった。
ただそれだけだった。
バイトも終わり、疲れから眠気がやってきた。欠伸を一つこぼす。外に出ると豪雨で、帰るのが怠くなる。
お客さんも全然来ないし。
今日は早く帰れと店長に促され、バイト時間が短くなったということはつまりお給金が少なくなったということ。ああ。今月の課金間に合うかしら。
ぼとぼと傘の先から雫が滴り落ちた。車が道路を走るときに水溜りにタイヤが突っ込み、しぶきが跳ね上がる。大量の水が攻撃するように向かってきて、靴下までびちょびちょになった。最悪だ‥
気持ち悪くなった靴の中の感触にげんなりしながら、わたしの城であるアパートの一室を目指す。
アパートの下についたところで、ダストボックスの隣にぼんやりと座っている男に気がついた。明らかにただの不審者である。光る街灯の下で傘もささずにぼうっとしている。彼の着ている真っ黒なジャージはこれ以上ないほどに水を吸っていた。ホームレス、ではないか。
警察に通報でもしてやろうかと思ったところで、その顔が端正な男のものであり、一方的に存在を知っている人だと分かって目を見開いた。
「柳君、だよね。何してんのこんなところで」
べったりと濡れた髪が頬や額にへばりついている。彼は糸目を少し上げて、わたしを見た。見ている、と思う。目が細すぎて分からないけど。
何か事件を起こして呆然としているというわけでもなさそうだ。蛍光灯の光がやたら白くて、ぼうっと彼の存在が浮いているように見える。
兎にも角にも雨粒が邪魔そうではある。重くなったジャージごと彼の腕を引っ張った。
「ねえ、うちきなよ」
柳は迷うように逡巡して、そのまま俯いた。その拍子にまたばたばたとジャージのフードから雫が垂れおちて、場違いにも綺麗だと思う。
「ねえ、このままいたんじゃどうせ誰かから通報されるよ。それでもいいの?」
駄目押しのような一言を放ったところでようやく彼が動き出す。ほっとして家に入るように背中を押して促した。あーでも、家の中ゴミがすごいわ。ちょっと掃除したいんだけど、先にこの濡れ鼠をお風呂に突っ込んだ方が良さそうだ。
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