25
柳が月に一度実家に帰っているので、わたしもたまにはと思って帰省してみた。
本当は、実家はあまり好きではない。だからこれはほんの気まぐれで。
実家に帰ると柳は好物を夕飯に用意してもらえるだとか、そんなことを耳にしてしまって悲しくなったとかいう子供じみた理由では決してないはずだ。

「姉貴珍しいじゃん家に帰ってくるとか」

4畳半の狭い部屋の中、薄汚れたクッションに座り漫画をめくっているのは愛しい弟の遼である。
贔屓目に見なくても彼は結構かわいい顔をしている。いい遺伝子は全部弟に回った。

「たまにはいいかなって」
「ふーん」

首を竦めてそう答えたものの、ジャンプから視線を一切逸らさない弟。弟よ久々なんだからわたしと話してくれてもいいのに。そんなに姉よりジャンプが好きか。

「あら、帰ってたの」

弟の部屋のドアを開け、淡々と興味なさそうにわたしを見たのは母だった。
黒髪に混じる白髪に、ぼんやり、母も年取ったなあと思った。

「まーね」
「あんたのご飯とかないから勝手にしなさいね」
「はは、うん」
「遼、ごはんよ。はやく降りてきなさい」
「姉貴飯どーすんの?」
「あとでコンビニで買うよ」


天井のシミを見つめながら、弟のベッドで寝転ぶ。
既にわたしの部屋は物置と化していて、この家にわたしの居場所などどこにもないのだと改めて突き付けられた気がした。

昔から、両親は弟だけをかわいがった。最初は弟の体が弱いからだと思っていた。実際幼い頃はそうだったように思う。
しかし、お互いが小学生に上がった頃からその扱いの差は顕著になった。弟は天才肌で異様に覚えが早く、成績が良かったのだ。彼は教科書はぺらぺらめくっただけで内容を理解してしまう。それにいち早く気がついた両親は、弟に人より優秀な教育を施すことにした。
わたしは死ぬほど努力した。躓いて挫けそうになっても机にかじりついた。ただ、愛して欲しかった。何で弟がすぐ出来ることをわたしには出来ないのだろうと泣きながら頑張り続けた。
高校は県内で一番優秀な女子校に入学した。嬉しかった。両親が喜んでくれたからだ。
ただ、それに輪をかけて弟が優秀なことを忘れていた。彼は進学した私立中学でさして勉強をしていなかったにも関わらず、常に主席をキープし続けた。わたしにもさっぱりわからない小難しい全国模試でも100位以内に入り、生徒会にも選ばれた。
両親は弟への祝いの席で、悪気なくわたしは失敗作だと口にした。

壊れたのはそこからだ。特に目標もなく頑張っていた勉強。愛されないなら、もう全てがどうだってよかった。元々は面倒くさがりで、一度努力をやめてしまうとなし崩しだった。
深夜のドンキにブリーチ剤と毛染めを買いに走った。初めて自分で染めた髪はムラだらけで汚かったけれど、燃えるように真っ赤に染まった髪は不良っぽくていい。
翌朝、母にも弟にも度肝を抜かれ、父には叩かれた。
愛してもない失敗作に一丁前に大人みたいな顔をした親に更にムカついた。
先生たちも染め直せとただ怒る。何故いけないのか理由を説明して欲しかった。納得する理由を大人はくれない。ただ集団行動を身につけさせるためならわたしはもう十分頑張ってきた。だからその大人からの怒号にも、ただべえっと舌を出して反抗した。

学校にもあまり行かず、家でゲームにのめり込むようになった日々。出席日数がギリギリ足りているだけのクズ。それが高校生のわたしだった。


「姉貴、まだコンビニ行かんの?ならゲームしようぜゲーム」
「えーなにやる?マリカ?」
「いいよ」

わたしの髪色や不良化には驚いたものの、弟はわたしへの態度が唯一変わらなかった。友達からも指さされ手のひらを返されたわたしの、唯一の味方。弟はわたしにとってコンプレックスではあるが彼が嫌いなわけじゃない。
コントローラーを握り、はやくと彼を急かす。

|
top