目の前の髪色はわたしと似た赤だった。
「おっなんかこいつっぽくねえか?」
「髪色が赤じゃな。あとメイクが薄い」
ストリート系の格好をした青年が、猫目に近い大きな目でじろじろと穴があきそうなほど見てくる。何だこいつ。
NewEraのキャップにSupremeのシャツ、Dickiesのハーフパンツにバッシュ。もう何もコメントが出てこないほどにゴリゴリのストリートファッションである。顔は可愛い系。
隣の気怠げな銀髪の青年も端正な顔立ちでめちゃくちゃ目立つ。髪色もそうだけど雰囲気に独特のオーラがあった。ビックシルエットのTシャツに擦り切れた細身のダメージジーンズ、本革のオシャレなサンダルを履いている。不安になるほど足が細い。
「お前、柳って知らねえ?柳蓮二」
うわやっぱりなんか見覚えあると思った絶対こいつらテニス部。内心ゲッソリしながら、うんざり顔で頷く。
最近幸村様やジャッカルにも「柳となんかあったろ」と言われる。鬱陶しいことこの上なかった。柳とは完全な他人に戻っただけじゃないか。一体何がどうなってるんだ。
「お前が柳の彼女とか聞いたけど」
「んなわけねぇだろ」
「お前さん、口悪いの」
「ほっとけよ銀髪」
ささくれだった心を落ち着けるように学食のオムライスを口に運んだ。せめてユカさんが一緒にいれば、こいつらへの悪口で騒げたかもしれないのに。でもユカはテニス部信者だったわ。
ストリート(仮)が隣の席に座る。ちらりと横目では彼を見たものの、もう無視したい。顔面偏差値が高い男子が近くにいるのがこうも居心地の悪いものとは。周りで女子がひそひそと囁いているのは恐らく勘違いではない。
銀髪はあろうことか真正面に座る。
「柳が柳らしくなったと思ったら、またらしくなくなってしまったようでの。お前さんが関係しとるんじゃないかと思って」
「わたしは柳のメンタルトレーナーじゃねえよ。柳のこと押し付けてくんな」
「まあ、そういうなって。柳と親戚だろ?」
「うるせえっつってんだろ!バカ!」
見知らぬ他人が揃って柳柳柳。なんだよ。柳おせっかいな友達多すぎ。
がしゃんとスプーンを置いて席を立つ。そんなわたしの腕を掴んで引き留めたのは、どこからともなく現れたジャッカルだった。
「おいお前ら何してんだ。苗字も何泣きそうな顔して」
「何だよお前も関係ねえだろうがジャッカル」
「いつにも増して口が悪ぃな!まだ皿の飯も残ってるし取り敢えず座って落ち着けよ、な?」
コーヒー中毒の癖して頭とか撫でてくるなよ。つーかそんな仲良くないくせに善意押し付けてきやがってなんなのジャッカル。ムカつく。
本当にいつにも増して口が悪い自分に気づきながら、泣き顔を見られたくなくて俯いた。どうして柳ごときでこんな不安定になって掻き回されているのかが分からない。
わたしを好きだと柳は言った。
あのとき、スッキリした顔でうちから出ていったくせに、わたしが男遊びをしたら惜しくなったのか。足りない頭がキャパオーバーにパンクしそう。何故か不安でたまらない。
ああ、そうか。わたし不安なんだ。もし柳に愛して欲しいなんて思ってしまったら、また努力しない自信がない。柳と一緒にいたら楽しいのは分かってるし、柳のことも知りたい。
でも頑張り始めたら、際限なく泥沼にハマって愛して欲しい病にかかる。それは絶対にダメだし、怖い。そんな自分はもう見たくない。またそんな風になって、愛してもらえなくなったら、きっと今度こそ髪を赤くする程度ではおさまらなくなるだろう。
「で、どうしたんだよ」
「何も言うつもりない」
何かはあった。
柳とこの前まで一緒に住んでました、出て行ったと思ったら告白されましたなんて口に出せない。そもそも、柳が『らしくなくなっていた』であろう期間について誰かに相談するつもりはない。柳がどうしたら柳らしいのかなんてわたしは知らない。それでも布団の中で小さく丸くなっているのは、完璧主義らしい柳にはあまり似つかわしくない。
誰だって自分の黒歴史をあれこれ外に言いふらされたくはないだろう。それが自分の核に迫るようなことなら尚更。
「あ〜、まあ、今日のところはよそうぜ、仁王」
「プリッ」
「あー分かんねえけど泣くな。頼むから。今度飯食いに行こう、な?コーヒーも奢ってやるから」
「絶対に奢ってねジャッカル。ブルマンが飲みたい」
「意外に優等生な味が好きだなお前。わかったよ。約束な」
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