09
ほどほどに栄えた改札の外に出て、これからどうしようかと考える。
駅の柱に表示された周辺地図とアプリとを交互に見た。
茅ヶ崎ではあまり降りたことがなかった。
茅ヶ崎美術館には行ったことがあるものの、だいたい近場は江ノ島までで、それ以上となると小田原箱根まで足を伸ばしてしまう。だからこそここに来てみたというのはあった。

北茅ヶ崎の方は工場が多そうで、それはそれで面白そうだ。工場からもくもくと煙が出る様や大型の機械が轟音を立てて動くのは、ファインダー越しに見ても迫力がある。何かいいモチーフになりそうだった。
しかし、海側にはどうやら椿園があるらしい。時季とはだいぶズレてはいるものの、椿の花が首からぽとりと落ちている様はどこか寂しく風情がある。想像すると少し気分があがりワクワクしたので、椿園に行ってみようかと海の方に向かうことにした。
大きな通りをゆっくりと下る。誰と連れあうわけでもない自分のペースで。
海の近くで昼食をとるのもいいかと、途中のコンビニに寄って食料を調達することにした。ちょっとしたピクニック気分だった。
カフェラテと500mlのお茶を選び、おにぎりコーナーで具の種類を吟味していると、見知った声が聞こえてくる。どうやら声の主は、先ほど入店して来た客らしい。

「ジャッカル〜奢ってくれよ」
「ふざけんなブン太。なんでだよ」
「俺にも奢ってくれんか柳生」
「仁王くんも、店内でふざけないで下さい。早く選んで行きますよ」

後ろを向くと、辛子色のジャージを着た人間が4人。大きなラケットバッグを持った彼らがウロウロしているとだいぶ店内が狭く感じた。居心地悪く思っていると、柳生がおや、と心当たりのある顔をしたので迷いつつも一応会釈をした。彼は少しだけほほえみ会釈を返してくる。

「柳生、知り合いか?」
「同級生ですよ」
「へえ」

フーセンガムを膨らませた彼がわたしをじろじろと見て、すぐに興味を失ったように飲み物を選び出す。日に焼けたその手を何となく見つめた。

「すみません、友人が失礼なことを」
「え?ううん、なにが?」
「あ、いえ。ならいいんです」

それでは失礼、と柳生もレジへ向かっていった。
そういえばこのあたりの近くにテニスコートが併設された大きな公園があった気がする。
ジャッカルはスポーツ用品店のビニール袋を下げていた。ここに来る途中で買い物でもしたのかもしれない。



歩きながら、ゆっくりと海を眺める。ファインダー越しのきらきらと輝く水面を撮影しても、どうもピンとこない。まだシーズンでないためか海岸沿いには人が少なかった。
椿もやはり旬を過ぎており、美術展のモチーフにはぼっとりと落ち黒くなった椿の写真を想像を膨らませて赤く描くことになりそうだ。何となくこうじゃない感がある。

砂の様子などを接写したりしてみる。潮風が全身を煽り、髪がキシキシと指通りが無くした感じがする。帰宅してから面倒になる予感がした。
ぼーっとしながら5分ほど歩くと、あった。

寂れたバス停だ。夕方の日差しが柔らかく差し込んだそこ。ベンチの錆びた哀しい具合。
正面から何度も撮ったり、ベンチの近くに寄って斜めから逆光で撮ってみる。

これにする。