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校門から少し西に歩いたところにある藤棚の藤が、淡い紫色を下げている。
それを教室の窓際からぼんやりと眺めた。
手元ではその間も、乾いた音を立てながら作業を続ける。

体育祭が明日に迫り、校内は騒がしさを増していた。今日の午後の時間はまるまる準備の時間に当てられ、校庭ではあわただしくテントを設営する生徒たちの姿も見える。明日も天気予報は晴れだ。うまくいくといい。

キャメルの机の上に散らばるのはピンクの紙の花だ。薄い紙で蛇腹を作り、真ん中をワイヤーでくくる。その左右を広げて皺をつけ、また上下にそれを広げボリュームを出す。
大量に制作している花は、ちょうど今設営中のテントの下に置く長テーブルに貼り付けるものらしい。あってもなくてもそう変わらないものだと思うのだが、指示されたことなので黙ってひとり生産を続けた。
最初はいつものグループの子たちと一緒に作業していたのだが、ボード作成の人手が足りないということで彼女達はそちらに駆り出されている。ひとりきりの教室というのもなかなか珍しい状況かもしれなかった。静かでまわりの音がよく聞こえる。居心地は悪くなかった。

「うわぁっ人いたのかよ」

おもむろに教室のドアがスライドした。高めの驚き声とともに、茶色がかった目を見開いたのはクラスメイトの染谷だった。目立つグループの中でよく笑っている男子。バレー部だったと記憶している。

「え、ぼっち?」

一人でただ作業していたわたしに、彼はそう聞いた。

「まあ、そうだね」

あいまいに笑って答えると、染谷は馬鹿にしたように鼻で笑う。

「染谷くん、はどうしたの?」
「しらね。サボりじゃね」

彼は人ごとのようにそう言ってぽりぽりと頬をかき、前の席の椅子を引いて座る。後ろ向きに、わたしとは机を挟んで向き合う形だ。
わたしと染谷は、決して親しい関係ではなかったはずなのだが、社交性がありそうな彼はわたしと向かい合っても何も感じないようだ。
わたしとしては急に居心地の悪い空間になった。何を話したらいいのかも分からないので、困惑する。

「なんか、面白いもんねえ?」

憂う顔で外を眺めながら、端正な顔は頬杖をついた。

「面白いもの‥」
「そう」
「そうだなあ‥藤が咲いてるけど‥」

染谷にとって面白いかは微妙なところだ。それより校庭を走り回る上級生やラインを引き直す生徒の方が面白いだろう。
しばらく校庭を見ていたもののさして興味を引くものが見つからなかったようで、染谷はわたしのしている作業に目をつけた。

「これ、残りも一人でやんの?」
「たぶん、そう」
「終わんの?」
「終わるんじゃなくて、終わらせるんだよ」

スポ根精神のようなことを口にすると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をして薄い紙の束に手を伸ばす。どうやら手伝ってくれるつもりらしい。
どうやるの、と憮然と聞かれ、手順を説明した。日に焼けた不器用そうな手が紙の花を作る。女爪だな、とどうでもいいことを思った。

「つーか、ここで一人とか虚しくねえの」
「特には」
「ほんとお前つまんねえな」
「そうだろうね」
「怒れよ」

ほんとつまんねえ。染谷はぼそりとそう言ったきり、口を閉ざした。