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体育祭当日は、やはりよく晴れた。
運動は好きだが得意とはとても言えないわたしは、例に漏れず目立たず騒がず、隅の方でグループの子たちと固まって観戦に精を出していた。
必須種目だけの参加で、しがない文化部所属のため部活動対抗リレーなどもない。
「なっちゃんも名前ちゃんも、文化祭は忙しそうなのに。体育祭はなんだか地味ねえ」
「お母さんうるさい」
幼馴染のなっちゃんこと寺内夏美は鮭のおにぎりに齧り付きながら、おばさんを睨みつけた。
学校行事の全てにおいて、わたしの両親は不参加の姿勢を貫いている。三者面談さえ、通いの家政婦である志穂さんに出席をお願いするほどの徹底ぶりだった。
そのため家族の輪に入ることを強制されてしまう行事の際には、夏美の家族がその中に混ぜてくれることが多かった。
体育祭のお昼休憩では、各々家族と昼食を囲む。
校庭に散らばるレジャーシートの上に各家庭のお重箱が並ぶ景色は平和そのものだ。
「ご両親がいらっしゃらなくても、名前ちゃんはしっかりしてるわよねえ。夏美のことも安心して任せられるわあ」
「あたしは子供か」
「名前ちゃんに比べちゃうとねえ」
おばさんの笑い声に夏美が不貞腐れる横で、卵焼きをつつきながらわたしはただ苦笑いを零した。
「苗字、これはお前の落し物じゃないか」
シートに座るわたしより随分高い位置にあるその頭。突然話しかけられ、驚いて瞼を上下させる。
彼は糸目でじっとわたしを見下ろしていた。彼が立っているのもあるが、やはり背が高いのだなと改めて思う。
「え、あ、うん。そう。どこかに落としてた?」
「水道の脇に」
「どうもありがとう」
柳が差し出してきたのはチェックの、どこにでもありそうな木綿のハンカチだった。記名もしていないのに、よくクラスメイトのハンカチの柄まで把握しているものである。いっそ恐ろしいほどだ。感心しながらそれを受け取る。
「まあ、まあ!あなたかっこいいわねえ!」
「………………」
目の前でおばさんが星を飛ばす乙女の表情で興奮したように柳を見ていた。彼は当惑したような色を梳いた顔で、少し頭を下げ立ち去った。夏美がおばさんの腕を恥ずかしそうに叩く。顔の造りがいいひとは大変だなあと、さすがに同情せざるを得なかった。
午後の部活対抗リレーを、体育座りしながらぼんやりと眺める。
やはりというべきか、注目株はテニス部であるようだ。
生徒会の男子の、興奮したような実況の声が響いている。彼はプロレス実況が好きなんだろうかという熱の入りようである。周囲の生徒が実況を聞いてくすくすと笑っていた。
男子テニス部は部員も多いせいか、辛子色のジャージの生徒たちが大きな声で応援を飛ばす様はとても目立つ。その間に女子の黄色い声が混ざっているのは、気のせいではないだろう。
わたしの位置から一番良く見えるのは、アンカーの生徒達だ。
濃い紺色のウェーブした髪を垂らす美しい顔の男子生徒は、その中でも一際目立っていた。