14
アンカーの生徒たちが屈伸したりと準備をする中、4番走者の人達が駆け込んでくるのもよく見えた。
テニス部は陸上部の次に速かったのだが、4番目のテニス部の走者がついに陸上部の少年を抜かした。
彼は既に大人のような体格で、少しだけ汗をかいた顔の眉間には深い皺が刻まれている。速い、速いですテニス部!という興奮した実況が響いた。
それぞれの部活で関係しているものをバトンに採用しているらしく、野球部はバット、サッカー部はサッカーボール、テニス部はテニスラケットをバトンにしている。
ラケットのグリップを握りしめた険しい顔の彼が走る。前には誰もいないのに、鋭い視線は誰かを射殺さんばかりに睨みつけている。日に焼けた頑丈そうなふくらはぎが躍動していた。こんな距離は、彼にとってはどうってことないのかもしれない。
どこからか、真田君かっこいいね、というひっそりとした声が聞こえた。
ラケットは上級生と思しき青年に手渡され、彼はいいスタートをきって走り出した。だがそれでも陸上部の小柄な少年のほうが一枚上手だったようで、離されていた距離がいっきにぐぐっと縮まった。
そして小鹿のような少年の手足は思い切りテニス部を追い抜いた。
ラケットを上下に大きく揺らす青年は悔しげな顔で必死についていくものの、みるみるうちに距離が離されていく。その差は4秒はありそうに見えた。
しかしバトンパスされた陸上部のアンカーの少年が、走り出したところで姿勢を崩し盛大に転んだ。すぐに肘をつく姿勢になったものの、膝からはぼたぼたと血が垂れる。勢いが良すぎて皮膚を抉るような転び方をしたらしい。傷口には小石が張り付いている。
転んで痛めたのとは反対側の腕を、紺色の髪の青年が引っ張って持ち上げた。陸上部の少年はあちこちに大きく血が滲んでいた。
幸村はそれに一瞬顔を顰めた。
その間に、野球部とサッカー部、そしてバレー部とバトンパスし、彼らを横目に通り過ぎていく。
「後悔したくないなら走るんだ」
ぽん、と一瞬陸上部の少年の背中を幸村が押した。その言葉に力を貰ったように、陸上部の少年が足を踏み出した。幸村も前だけを見据えて走り出す。一歩一歩素早く踏みしめて、前との差を縮めていく。
5番走者とアンカーのみ走る距離が半周でなく一周分なのも功を奏したようで、ぐんぐんと一人、また一人と幸村は抜かしていった。
ついにサッカー部を追い抜かんとしたところで、ゴール地点に到達してしまった。
テニス部の最終順位は二位だった。
最後の幸村の走りに周囲も感嘆の声をあげる。
陸上部の少年を助け起こさなかったら、きっとテニス部は一位でゴールしていた。それでも幸村は迷いなく立ち止まっていた。そして彼の背中を押した。
「幸村君、ほんとかっこいいねえ」
「そうだよねえ」
彼らは騒がれることをあまりよく思っていないのだろうが、どうしたって騒がれるように出来ているのだろうと、周りと揃って彼らに拍手を送る。
幸村が、みんな二位でごめん、と部員達に頭を下げているのが遠くからでも見えた。