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今まで遊んできたクラスメイトや友達は揃って、わたしのことを忘れてしまった。例外は幼馴染の寺内夏美だけだ。

すこし記憶に覚えがあるのかわたしを見て申し訳なさそうにする子もいれば、全く覚えがないようで話しかけると不快そうな顔をする子もいた。

彼女にも今まで同様に忘れられてしまうのかもしれないと思いながらも、石田さんと休日に遊びに行くことにした。
今までよりも思ったことを素直に口にできるようになったこともあって、彼女と一緒にいるのは居心地がよく思うようになっていた。

すこし足を伸ばし、横浜中華街に遊びにいく。異国情緒を感じられる街並みの中を歩くのは楽しい。
前の人生のことではあるのだが、中国にも台湾にも旅行に行ったことがある。あそこの路地はもっと汚かったけれど、ここの雑踏にはあの時感じた匂いと似たものがあると、ふと思い出した。

石田さんと半分に割った肉まんを一緒に食べながら歩いたり、途中でチャイのソフトクリームを食べる。中華街の1番の醍醐味はこういった食べ歩きだと思う。
街中に踊る不思議な中国語に、あれはなんて読むんだろうねなんて、お互いとんちんかんな予測をして、調べてみては意味が全く違うことに笑ったりした。

すごく友達っぽくて、たのしい。こういった楽しみ方を、長いこと忘れていた。夏美といるときともまた違う楽しさだった。

石田さんは、家族にお土産を頼まれているらしい。

「どういうのがいいかなぁ。これ!っていうのはなくて、とにかくお土産がほしいんだって」
「んーどれがいいかな‥横浜っていえばハーバーだよね。パンダかあ‥可愛いけど上野にもいっぱい売ってるよ‥」

そういえば、久しくお土産なんて買っていない。
保護者と言える存在がいないわたしはホテルやネットカフェに一人で宿泊が出来ないため、遠出や旅行するときはひっそりと消えてひっそり帰ってくる。中学生で野宿したとはとても周りには話せない。
それにお土産を配れるほど親しい友達も、夏美くらいしかいないのだ。

たまにはと、夏美とお手伝いの志穂さんにお土産を買って帰ることにした。石田さんと一緒に横浜博覧館の中をウロウロして回る。
夏美は用途不明の雑貨を好む傾向があるので、花文字の葉書と、彼女が家族みんなで食べられるように胡麻団子を買った。
志穂さんには乾きもののフカヒレスープとベビースターだ。

「石田さんは決まった?」
「えーどうしよう!どうしよう。迷う!どれにしよう〜」
「まだまだ時間はあるし、ゆっくり決めようよ」

わたし以上に優柔不断らしい石田さんに共感を覚えるやら、かわいらしく思えるやらで笑顔になる。

「ごめんね、付き合わせて」
「こういうのが楽しくない?」

首をかしげると、石田さんは嬉しそうにふわりと笑った。
そう、石田さんはすごく可愛くて美人なのだ。わたしはいつの間か、そんなことをすっかり忘れていた。


後ろの男性グループがあの子可愛くね、と小さく話しているのがわかる。
焼き小籠包を食べるため、注文列に並んでいた時だ。人気店らしく行列が長い。
石田さんは目を輝かせながら、小籠包の中身がフカヒレと豚肉の二種類で迷っている。
その為後ろのグループの不穏な雰囲気には気がついていない。

今日の石田さんは白のフレアスカートに花柄のカーディガンで、和系の美人な顔立ちにも関わらず女子らしい服装もとても似合っている。

石田さんにふたつの味を買って半分こしようよと提案しながら、嫌な予感がしていた。