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やはり彼らの体は人を超えてるんじゃないだろうか。そもそも、これはテニスなんだろうか。
ずっと前から思っていたことを改めて理解するすごい試合ばかりで、どこをどう切り取って写真にしようか迷う。人が壁に叩きつけられても普通に体を起こすなんて、海外映画にしか無いと思っていた。
しかしわたしからすれば、ここは異世界にあたるわけで、もしかしたら人間の身体能力にも違いがあるのかもしれない。

口をぽっかりと開けたまま視線をうろうろさせていると、氷帝の集団を見つけた。今年の東京代表は彼らだ。

東京駅で偶然にも跡部に会った時、やるよと慰めるように頭に被せられた氷帝のジャージ。
彼に返そうかどうか迷い、一応持ってはきたのだが、話しかけられる気は全くしなくなった。
氷帝生と思わしき質のよさそうな制服を着た生徒が沢山いる中で、キングと自称して憚らない目立つ跡部に話しかけるなど愚の骨頂に思えてならない。
それに跡部は相変わらず美しくて、眩しくて。この状況でなくとも自分から話しかけることなど出来なかったかもしれなかった。彼はニヒルに口角をあげて不敵に微笑んでいた。その隣にいる眼鏡の少年は忍足に見える。

「あ‥」

別のコートで試合が始まった。見ると辛子色のジャージを纏った人たちがいる。立海の試合が始まるようだ。
対戦相手は知らない中学だ。紫紺のジャージで東海地方代表の一校らしい。しかし彼らの顔が一様に蒼ざめているところを見るに、昨年王者の立海相手に勝率は高くないように思える。遠目で見ても真田の威圧的な顔が恐ろしく、思わずわたしも苦笑した。
中央に立つ青年は幸村で、既に部長の風格だった。肩に引っ掛けただけのジャージが、今年落ちることがないことを知っている。
ベンチメンバーに仁王や丸井、ジャッカル、柳生は見当たらない。現三年を押しのけて入れるのはビック3だけということらしい。
丸井は今ごろ、俺の天才的妙技があるのにと不貞腐れて闘志を燃やしているんだろう。それをジャッカルが来年こそと宥めているのが、想像がついた。
仁王と柳生は親しかったことがないからわからない。現一年の切原は話したことすらないし、あの少年は会話したところで他の人より早くわたしの存在など忘れてしまいそうだ。

初戦から幸村が対戦することになっているのか、コートに幸村一人が入る。最後の最後まで彼を温存しておく来年が嘘のようだ。立海の層の厚さに驚きながら、カメラを構えた。望遠レンズを伸ばして、フレームの中央にその姿をおさめる。

動いているものを撮影するのはとても難しい。シャッタースピードは早く、人物と背景にはコントラストがあった方がダイナミックに、はっきり見える。連写してもピントがズレてしまうのをもどかしく思いながらシャッターを切る。
どう撮ろうか迷っていたのが嘘のように、右に左とそのシルエットが揺れてラケットを振りかぶるのを、無心になって撮影した。

始終険しい顔をして、決して楽しそうとは言い難い姿ではあったものの、彼のテニスは躍動感があってとても美しかった。ため息が出るほど。
赤子の手を捻るかのように、簡単に試合が終わる。