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「お前ら...強すぎる...」

ぜえぜえと荒い息を吐く少年の前で、ラケットを肩に乗せながら真田はせせら笑う。

「ふん。こんなものか....やはり、我々立海が最強だな。勝って当然ということか」

そろそろこの試合も終わってしまう。
ボードには圧倒的なスコアが刻まれていた。
一方的すぎるほどの試合を作り上げているのは真田の常の努力の賜物以外の何でもない。
常勝立海の意識はいつできたのだろうと思っていたのだが、真田がその一因を担っている気がする。立海は伝統校らしいが、立海が絶対的王者であるのはこの二年だけだ。
常に勝たなければならないという鎖は中学生にとってはあまりにも重い気がした。

幸村もベンチで当たり前のように足を組んで、無表情で真田を見ている。
その様子を見ながらわたしはたまたま持っていたメモ用紙に走り書きをすると、彼の姿を探した。

「あの」

赤い髪に後ろからこわごわ声をかけると、丸井は不思議そうな顔をして、俺のこと?と振り向いた。
会話途中に割り込んでしまったため、まわりのテニス部員も少し不思議そうな顔をしている。

「これ、幸村くんに渡しておいてもらえるかな...」
「お、おお....」

一瞬警戒した丸井は形式ばった手紙ではないと気付いたようで、なんなく受け取ってくれた。
渡したメモ帳は折りたたんですらいない。

「え、帰んの?」
「うん...幸村くんに、よろしくね」

十分写真は撮った。もう無理していることもないだろう。
彼らが優勝旗を受け取るところまでは見なくてもいい。
楽しい試合も、見応えがある試合も、胸が高鳴り息を止めてしまうような試合もあった。
もう満足だ。

「せっかく来たのに、最後まで見ねえのかよ」
「うん...」

どこか不服そうな丸井に苦笑して、カメラを抱えて立ち上がった。



無意識に、人垣の中にあの子の姿を探した。
名前は.....名前は?一瞬忘れかけていた自分に驚きながら、名前を懸命に思い出す。
そうだ...あの子は、苗字だ。

「幸村くん、立海が優勝だな!やったぜ!来年こそは俺もコートに立つ!」

肩にじゃれてくる丸井は来年のレギュラーの最有力候補の一人で、実力は折り紙付きだ。現三年と実力的にはさして変わらない。年功序列で選ばれなかっただけの話だ。来年も立海の優勝に死角はない。
微笑みながらありがとう、と返すと、そういえば、と丸井が逡巡しながらポケットからしわくちゃになった紙を取り出した。

「これ、あー...なんか、幸村くんが連れてきた地味そうな女子から」
「地味そう....苗字のことかな」
「あーそいつかな、わっかんね。しかもそいつ、途中で帰っちまってもういねえぜ。じゃ、俺は渡したから」

丸まった紙を広げると、几帳面そうな文字が並んでいた。筆圧が弱く、こんなところでも印象が薄いんだなと思う。
『幸村くん、お疲れ様。優勝おめでとう。さっきは助けてくれてどうもありがとう。最後まで見られなくてごめんなさい』
その瞬間まで見ていなかったようなのに、勝利が決まっているかのような書き方に、多少しか知らない本人の性格を踏まえて違和感を覚える。これで優勝しなかったらどう言い訳をするつもりだったのだろう。
だが立海は圧倒的に強いのだから、優勝も当然だと彼女も思ってくれていたのかもしれない。

他校の学生に絡まれている彼女を見たとき、とても不愉快だった。
どこか心の内で、あの絵の感想をずっと伝えたいと思っていたのに。俺は、会いたかったのだ。彼女に。
苗字が会場にいるのを見つけて驚いたのも一瞬で、細い腕を引きながらどうして俺に話しかけに来てくれなかったのかと子供っぽい感情を抱いた。結局このメモ用紙にも彼女への連絡先は書かれていない。俺は苗字とまともに話が出来ないままだ。

「精市、何をしている。表彰式が始まるぞ」
「今行くよ、弦一郎」

メモ用紙をポケットにしまう。
優勝の喜びもあり、暫く彼女のことは忘れた。