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夏休みも終盤にさしかかるころ、夏美の家に遊びに行った。
どこかにいくでもなく、夏美の部屋のクーラーの下で悠々と本を読むだけだ。彼女はその間ゲームをしていたりと好きなことをしていて、ときにはわたしが彼女の課題を手伝ったりする。
夏美と一緒に遊ぶときは、こういった過ごし方はこういった形も多い。
幼馴染の慣れた無理のない距離感だった。

今回の夏、約束を取り付けて会ったのは夏美と美織だけだ。自分の友人の少なさには笑ってしまうが、課題をやりに図書館に出掛けたり、テニスの試合を見に有明に行ったりもした。長野にも行き、写真を撮りに出かけたりはしたので、この休みは今までになく活動的で充実していたと思う。

「長野?長野いったの?そんな遠くにいくとか珍しいね」

長野のお土産を渡すと、夏美は目を見開く。そういえば、わたしが以前横浜に出掛けたといってお土産を渡したときも彼女は随分驚いていた。

家族でよく旅行に出かける寺内家は、今回はどこにいったと毎度お土産をくれる。
実はわたしもひとり旅行はしているのだが、伝えるわけにもいかず依然黙ったままだ。そう考えるとわたしが旅行したということを伝えるのは初めてだった。

「美織と出かけたの」
「美織...?」
「石田さんだよ」
「ああ、あの最近仲良くしてるっていう.....旅行いくほど仲良かったんだ....えと、大丈夫なの」

彼女の顔色は芳しくない。

「何が?」
「えー....男遊び激しいとか、あの子色々噂あるから...一緒に出掛けたりしても大丈夫なのかなって。名前は大人しいしそういうタイプじゃないじゃん」

一応心配してくれているらしい幼馴染に笑い返した。

「美織は話すとすごく素直で普通の子だよ。なっちゃんも今度話してみたら?」
「ええー?あたしがあの子とぉ?特に用事もないのに〜」

お土産のリンゴのお菓子を貪りながら、夏美は悩んでいる。
渋るような言葉を言いつつも彼女はわたしとは違い、社交性の塊のような子なので、あとで美織に話しかけに行くだろう。

わたしは何度も性懲りも無く、友達に忘れられる。そのときには毎回夏美のほうが戸惑っている。
それでもずっと彼女はわたしとも仲良くしてくれ、周りともうまく立ち回る。そういった社交性は才能だと思う。わたしもそういった上手さが欲しかったと、彼女を羨ましく思うこともあった。
夏美はそんな、亡霊のようなわたしにどこか怯えながら、ずっと親しくしてくれている。それにとても感謝していた。

「ねえ、そういえば名前は課題終わった?」
「なっちゃん終わってないんでしょ」
「そだよ!!!」
「力強く言うことじゃないよ」

こうして甘え上手でもあって、邪気のない顔で手伝って?とねだる夏美は凄い。感心しながらわたしも彼女を甘やかしてしまうのだ。

夏休み最終日まで、何も変わりはなかった。写真の整理をしながらいい夏休みだったと締めくくるまで、全くそれに気づきもしなかった。親しい幼馴染がいてくれて、美織が友達になって、お手伝いの志穂さんがたまに家に出入りをして、両親からは音沙汰もない。多分元気に仕事をして、好きなことをしているのだろう。
課題は順調に終わり、新学期からの憂いは特になかった。
はずだった。