05


「ねえ、お試しなら手つなぎくらいはいいかな?いい、よね?」

というわけで彼と手をつないで登校しているわけなんだけれども、やはりと言うべきか周囲から向けられる視線が痛すぎる。
されど隣を歩くイケメン様、いやもう王子はそんなことは全く気にならないらしい。にこにこと爽やかな笑みで、たまに宝物でも見るような眼差しで私の手を持ち上げては眺めている。
この王子はどこか頭が湧いているらしい。そう思わなきゃやっていられない。沸騰しそうなくらい顔面が熱い。イケメンこわい。

「じゃあ、また放課後一緒に帰ろうか。今日はテニス部、見においでよ。待ってる」
「え、ああ...うん...」

とろけるような目をして、私の頬に一瞬ちゅっと可愛いキスをお見舞いすると、鳳君は自分のクラスに颯爽と向かっていった。視線が...痛いよママ...。帰りたい。
お願いします鳳長太郎くんよ...恥という単語を...知ってください...。何なんだ一体。
イケメンに見初められてうれしいはずなんだけどちょっと困った。ゲッソリしながら校舎の隅で呼吸を落ち着けた。
教室の敷居を跨げば、目の前には恐ろしい鬼女たちが待ち構えている。

「顔貸しな苗字。全部吐いてもらうよ」
「ほお?イケメンとご登校ですか?余程死にてえようだなぁ」

私は今日が命日だったらしい。





鳳長太郎君。
(暫定)私の彼氏で、高身長もあってあのマンモステニス部の準レギュラー。
テニスは滅茶苦茶うまいそうなんだけど、優しい人柄で他人にレギュラーを譲ってしまうこともあるらしい。
私にはあんなに押しが強かったのに、鳳君にはいろんな顔があるようだ。
綺麗な顔面とソツない行動。親切でとにかく優しい。かつ彼は成績も結構よろしいらしい。
純日本人のはずなのに妙に羞恥心がなく所構わずべたべたとくっついてくるところを除けば(友人曰くそこがいい)凄まじいハイスペックの彼氏だ。
異性からの人気で言えば、どちらかと言うと同級生よりも先輩に人気があるみたいだ。確かに身長は高くて男らしいものの、ときに子犬のような可愛い笑顔をする。庇護欲が湧くの、わかる。
そんな彼は一日に一度必ず私に「好きだよ」「可愛い」とベタ甘で末恐ろしいセリフを吐く。いいんだろうか、(暫定)初彼氏がこんなんで。私他の男に目移りできなくなってくるよ本当に。
それはそれは、彼は私をお姫様か何かのように扱うし何か「お願い」をすると何でも快く頷いてくれる。

正直イケメンが私に傅くさまは‥気分がいいに決まっておろうが!!!

そんな彼と(暫定)お付き合いをはじめてから1ヶ月経った。

「朝ちゃん先生」

放課後、廊下でたまたま見かけた後姿。彼女は振り返ると「お久しぶりな感じね、苗字さん」と言った。

「聞いたわよお、あの鳳君と付き合ってるんだって?」
「あれ...よくご存じですね」
「有名になったわね苗字さんも。しかも鳳君がべったりだって言うじゃない」
「あ、はは...そうみたいです」
「羨ましい...しかも鳳君と一緒にいるようになってから医務室来なくなったわよね」
「...確かに」
「愛の力なの?そうなのこの野郎」


テニス部の朝練の時間に合わせ鳳君、長太郎とは一緒に登校するようになった。一緒に登校しない理由もない。どうせ早起きだし。なんなら今までと起床時間殆ど変わらないし。はは‥
長太郎がべたべたとくっついてくることで、私は必然的に長太郎のことばかり考えている。だから例の朝の気持ち悪さについて考えている時間もない。
不思議と「誰かに見られているような気がする」感じもしない。
自分の見た目にすごく自信があれば、「私に彼氏が出来たと思って見るのをやめたストーカーがいる」という解釈にこそなるんだけど、どうも納得がいかないような気がする。
何はともあれ健康になれて私はとても快適な毎日を送れているのは間違いない。


「そうかもしれないですねー」
「ムカつくわー。これから練習でも見に行くわけ?」
「あはは」
「苗字さんと同級生だったら蹴り飛ばしてるわよ」


さっさとお往き!と血走った目で睨みつけている朝ちゃんは素敵な夫がいる一児の母なんだけれど、どうにもイケメンが絡むと女子は怖いなと思う。
彼女への挨拶もそこそこにテニスコートに走っていけば、既に練習を始めているイケメンの姿があった。
何度見てもかっこいいな、素敵だなあと思う。同じテニス部の中でも一際目立つ高身長。
正直テニスのルールなんてものは全く分からない。それでも背の高い彼がよく大きく跳躍してボールをコートの中に叩きつける姿をみると心が躍る。さらに背が高く見えた。
運動するイケメンは非常にいい。はあ、かっこいい。


「お疲れ様」

一息ついてスポドリを手にする長太郎に近づいて声をかけると、それはそれは嬉しそうに笑ってくれる。


「来てくれてたんだ。オレの視界に入るほうにいたらもっと頑張ったのに」
「後ろから見たほうがサーブするところよく見えるから」


汗ばんだ大きな手に頬を数回優しくなぞられて顔がかっと赤くなるのを感じる。何度されてもこの動作は恥ずかしい。
テニス部はイケメン揃いらしくて、女子のギャラリーが多い。跡部様目当てが多いようだけれども。
彼女たちからのちくちくとした痛い視線を感じるものの、何か文句を言われたことは無い。嫌がらせもなかった。長太郎が常に一緒にいるからだ。
長太郎がこれだけ私にべったりだと口を挟む隙もあまりないのだろうなと思うし、どこからどう見ても「長太郎君はあんたのこと好きじゃないのよ!思い上がらないで!」なんていちゃもんをつけられる雰囲気でもないからだ。
これだけくっ付いているカップルにそう本当に思える人がいたら、その人はちょっとどうかしている。

「今日そろそろ練習終わるから待っててくれる?一緒に帰ろう。待たせてごめんね」
「ううん、気にしないで頑張って」
「うん、ごめんね」

ふ、とやわらかく微笑んで長太郎は私の頬に軽く一回ちゅ、と可愛らしいキスをすると、帽子を被った先輩が後ろから長太郎の頭を叩いた。

「おーまーえなあ!本当愛情過多すぎて見てらんないし恥ずかしすぎんだろ!バカじゃねえの!せめて家に帰ってからやってくんねえかなそういうの!」
「宍戸先輩、それは無理ですよ。押し倒すのこれでも我慢してるんです」
「おま...バカじゃねえの!本気でバカじゃねえの!!あのよ、コイツお前絡みになると性格変わってアホになるから!ちょっと離れててくんねえかな!」
宍戸先輩の恥ずかしげな死にそうな顔に申し訳なさが募った。長太郎と仲良しなのに宍戸先輩は全くと言っていいほどウブなのだ。
「宍戸先輩、いつもスミマセン...」

宍戸先輩に連れられて行く長太郎を見ながら手を振った。
家が大好きな私は家に早く帰りたいがために部活には入らなかったわけで、それは長太郎の存在が出来てからも変わらなかった。
長太郎も待っていてほしいとは強く言わないので週のほとんどは別々に帰るものの、こうしてたまに部活を見に来ると彼はとても喜んでくれていた。


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