06
長太郎と肩を並べて家路につくと、たくさん汗をかいたはずの彼からはいつものいい匂いがした。どうなってるんだろうイケメンの体内構造。
私の手をやはり壊れ物でも掴んでいるように大切そうに握る彼。
最近、この人が、長太郎が好きだなあと思う。そりゃあこうして車道側を歩いてくれたりご飯をおごってくれたり、お姫様扱いしてくれたりイケメンだったりするところもそうだけど。
前に一緒に動物ものの映画を見に行って隣で長太郎がぼろぼろ泣いていたことや、パスタの食べ方が綺麗なところ。育ちのよさそうな物腰の柔らかな言葉遣い。そしてイケメンなところ。
部活の仲間をすごく大切にしていることや運動するときの真剣な横顔。そしてイケメンなところ。
要約するとかっこよくてイケメンなところが、たまに抜けたところのある彼がすごくいいなと思う。
結構一緒にいるようになったからか、穏やかに笑っていることが多い彼のふとした表情の変化に気が付くようになった。
私が送ってもらって自分の家に入る玄関の前。手を離したとき、話半分でぼーっとしていたとき。彼は一瞬悲しそうな表情をする。
「あのね、長太郎」
他愛ない話をしながらやってきた最寄り駅の高架下。日が落ちてくるのが早くなってきて、人通りの少なさを確認し薄暗闇の中で彼の顔を見上げる。
ん?と彼は不思議そうな表情をしながら顔を近づけ、また頬に軽くキスをした。
「ちょ、長太郎...」
「ん...何?」
長身を屈ませて。頬を擦りつけられながら私はコンクリートの壁にじわりじわりと追い詰められ、背中にひんやりとした感触が当たる。
長太郎の両腕は私を囲うようにコンクリートに添えられていて、「これが俗にいう壁ドンってやつか...」と無性に恥ずかしくなった。
いやいやそんなことを考えている場合じゃなくて。
「長太郎...あのね、私、長太郎のこと...その...」
「うん、言って?」
本当は私が何を言いたいのか分かってるんじゃないだろうか。耳に吐息があたりぞわっと背筋が震えながらもその一言を口にした。
「ちょ、長太郎のこと...好きだよ。待たせてごめん、」
長太郎は私に長太郎以外の男子のことを考えさせなくするくらいに好きだと囁いた。
彼がどうして私のことを好きなのかは未だによく分からないけれど、少なくとも罰ゲームやらなにやらではなく本当に私のことが好きなんだと確信を持てるほどの愛情を注いだ。
毎日朝のおはようからおやすみまで来るメッセージや、私と会ったときにする嬉しそうな優しい表情、たくさん送られるキスや気遣いの数々。
私じゃなくても彼にそうされたら溺れてしまう女子はたくさんいると思う。
それから、手を離したときに悲しそうな複雑そうな顔をさせるのはもう申し訳なくて。
「....ッ」
感極まったように長太郎は私を力強く抱きしめた。いつも壊れ物のように私に触れる彼がそうしただけで、きっと我慢させてしまってたんだろうなと思い涙が滲んだ。
これからは不安にさせないように頑張ろう、と密かに決意をしてそっと抱きしめ返す。これで、お試しとかじゃなく彼氏彼女になれたかな。
「もっと...もっと言ってくれる....?」
「す、好き...好きだよ...」
「うん....」
彼は私に噛みつくようにキスをした。コンクリートに打ち付けないようにか後頭部に強く添えられている大きな手の平が熱い。
背の高い彼がかがんで、少し無理な体勢でキスをする。顎先が強引に上がって喉のあたりが詰まっている。荒い呼吸は熱くて、初心者の私には呼吸が苦しい。
唇を強引に割って、長太郎の舌が歯列を舐めまわすように早急に動く。奥で縮こまらせていた舌が彼の舌に触れると興奮したように強く絡めとられて吸われた。
上あごも舌を伸ばして刺激され、「う...」と声が出ると彼は急に唇を離した。
「ね...舌...出して...?」
ふわふわして何も考えられないバカな頭でおずおずと舌を出すと、「だめだよ...もっと」と囁かれ長太郎の男らしい指が私の舌を挟んで引っ張った。
恥ずかしすぎて真っ赤になっているであろう顔を長太郎は見たこともないような無表情で見つめると、その舌の上に自身の唾液を垂らす。
「飲んで...?」
(嘘でしょ...)
けどやはり私は頭がバカになってしまったらしい、それをこく、と音を鳴らして飲めば色気しかないような顔が近づいてきてちゅ、と可愛らしいキスを落とした。
「可愛い...世界で一番」
そのあとは唇を触れ合わせるだけの可愛いと言えるキスが続くけれど、それだけで恥ずかしくて先ほどの荒いキスよりも思考がふわっとしてしまう。
長太郎の熱い手が後頭部から離れ、シャツやキャミソールを潜り込み背中に触れたのが分かった。
「ん...待って...こわい...」
そこでようやくそう口にするものの、長太郎は唇を離すことを許してはくれずに追いかけてくる。
「背中だけだよ...少し触らせて...?」
優しげな色気のある微笑みでそう言われると何も言えなくて、屋外であることも忘れた。右手が背中に優しく触れる感触にぞわぞわしながら耐える。
左手は太ももに添えられていて、そちらも優しく際どいところまでを大きな手で往復して触れていた。
限界すぎて必死に長太郎にしがみつきながらその柔らかい刺激に耐える。
はあ、と彼が熱い息を吐いて解放してくれた時、既に腰砕けに近い状況になっていてへろへろと崩れ落ちそうになっているところを優しく抱きしめられた。
「可愛い...すごく可愛い...」
「ちょ....た...ここ外だよ...」
「うん、ごめんね」
でも嬉しかったよ、と微笑まれてしまえば流されやすい私は何も言えなくなってしまって、彼の厚い胸に顔を埋めた。
冷静になって考えてみれば本当に恥ずかしくて死ねる。今までエスカレーターとかでくっついてるカップルにも「どっせーい!きもいよ家でおやんな!」と殴り飛ばしたい気分だったのに。
ああ...同じ穴のムジナ....。
とりあえず長太郎に「付き合ったんだからちゃんとしよう?」と言って路上でキスするのはやめるように促したつもりだったんだけれど、あまり聞き入れてはくれなかった。
唇へのキスは自重してはくれたけれどスキンシップ過多なのは変わらない。頬へのキスは変わらないまま。
でも嬉しそうに私の手を握る長太郎の顔をみるとやっぱりイケメンで、どうでもいいか...と思えてしまうのだった。
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