私の力じゃ守れない
今日、左京さんからメールが来た。"今日のバイトは何時から何時までだ。"と。私は"7時〜16時までです。"も返信し、左京さんは"そうか。"とただ一言だけ返信を返してきた。特に何か頼むのではなく、バイトの時間だけを聞いて。
なんだか嫌な予感がしてバイトに集中出来なかった。今は午後13時。お昼にしては少しカフェはお客様の出入りが少ない。
「かえでちゃん大丈夫?」
『えっ、あ、大丈夫ですすみません。』
「もしかして具合が悪い!?」
『ちがっ、』
「無理しちゃダメだよ!君はいつも働きすぎだからね!!はい!今日は早上がりして!!バイバイ!!」
『店長!!ちょっと待っ…、』
待ってください、と言う前にバックヤードに放られた。これは本当に帰れと言うことだろうか。今日は幸い人も多いし、その点に関しては大丈夫だとは思うが、申し訳ない。こうなったらいち早く寮に帰ることにしよう。私は着替えて荷物を纏め、MANKAIカンパニーへと走った。
『何…これ…、』
MANKAIカンパニーへと戻ったはいいが、驚愕した。MANKAIカンパニーの前に大きなショベルカーが停まっているではないか。その近くには迫田さんが立っていた。
「げっ、お嬢…!」
『っ、入りますね!!』
ああ、なんとなくわかってしまった。左京さんがなんで私にバイトの時間を聞いたのか、どうして迫田さんが私を見て罰が悪そうな顔をするのか。
『左京さん!!!』
バンっと扉を開けて、一直線に左京さんの元へ向かった。正直左京さん以外何も見えていない。
『どうして…待ってくれるって言ったじゃないですか!!』
「お前…バイトはどうした。」
『そんなことどうだっていいです!私がいない間にここを潰そうとしてたんですか…!?』
お願い、違うと言って。そうじゃなきゃ私は結局…、
「そうだ。」
『…っ、』
役立たずだ。
「かえで…?」
『!!………お姉ちゃん…。』
一番会いたくない人に会うなんて今日は厄日だ。立花いづみ、私の双子の姉がどうしてMANKAIカンパニーにいるの?
「良かった、無事だったんだ…っ!心配したんだから!!」
『あ…うん、』
色んなことが重なり過ぎて頭がくらくらしてきた。潰されそうな劇団と会いたくなかった姉。
「感動の再会は外でやれ。ここは潰す。」
「そんな…!」
「迫田!」
「お呼びっすか、アニキ!」
「やれ。」
「あいあいさー!」
「そんな殺生なー!」
『だめっ、左京さん!やめてください…っ、』
左京さんは目すら合わせてくれない。この人は最初からここを潰すつもりだったの?私の言葉なんて信じていなかった?悲しい、悔しい、どうしてもここを守りたい。どうすれば−−−−っ、
「あ、あー!そうだー!思い出したー!」
『お姉ちゃん…?』
「ああ?」
「わ、私、実は父にもしものことがあったときは、この劇団を頼まれてたんですよねー。」
「え、えー!本当ですか!?」
「ほ、ほらー。松川さんも支配人だし、何か聞いてたんじゃないですか!?」
「ええ!?いや、別に。」
『!!…"ああ、そういえばこないだ松川さん言ってましたね。なんのことかと思いましたが私の父のことだったんですね。"』
「そ、そういえば、聞いたことがあるような…ないような?」
「要は団員を増やして四組ユニットを増やせばいいんです。ですよね、ヤクザさん?」
「まぁ、そういうことだな。」
「だったら問題ありませんよー!私が新しい劇団員を連れてきますからー!」
『!?』
お姉ちゃんのこの棒読み加減からしてきっと嘘だ。まさか今から団員を見つけるつもりなの?一体どうするつもりなのだろうか。
でも、今この瞬間お姉ちゃんが一番かっこよく見える。お姉ちゃんの演技に合わせることしか出来ない自分がやはり情けなかった。