君がいればいいよ


結局私達は日没までにメンバーを揃えることを条件に、劇場を潰すのを待ってもらった。しかし本当に団員を見つけなければまずい。

「かえでさん!」

『咲也君…!一昨日ぶりですね!』

「はい!かえでさんのおかげでMANKAIカンパニーに入ることが出来ました!でもまさかかえでさんがいるなんて思ってませんでした!」

佐久間咲也君。一昨日河原で出会った男の子。まさか咲也が入るか悩んでいた劇団がMANKAIカンパニーなんて思いもしなかった。せっかく入った劇団が潰れそうになってるなんてさすがに気の毒すぎる。

『私もまさか咲也君がMANKAIカンパニーに入ってるなんて…ごめんなさい…せっかく入ったのに潰れかけなんて…、』

「何言ってるんですか!頑張って団員を集めましょう!!」

「いやぁ、まさかかえでさんも幸夫さんの娘さんだったとは!」

「言ってなかったの?」

『うん、言わなくても苗字一緒だから気づいてると思って…。』

掃除として雇ってくれませんか、と言って履歴書を持っていたが、履歴書を出す暇もなく一発OKだったので支配人さんは私の名前くらいしか知らないと思う。掃除をする代わりに寮の一部屋を貸していただけるという条件で入ったため、銀行の口座とか教えたわけでもない。ちゃんと考えたら支配人さんよく素性がよくわからない私を雇ったな。

『おねえちゃん…新しい団員いないんだよね…?』

「うん、あの場を乗り切るためのハッタリ。合わせてくれてありがとうかえで。」

『うん…、』

「えええ!劇団はやっぱり潰されちゃうんですか…?」

『潰されないために今出来ることをやろう。』

「今からなんて無理ですよ〜!」

『支配人さん!とやかく言ってる暇はありません!』

「無理かどうかなんてやってみないとわからないじゃないですか!」

と、私達が支配人さんを叱咤するが、支配人さんはうじうじといじけ始めてしまう。お姉ちゃんは若干イライラしている。

「あの、俺、何が出来るかわからないけど、手伝わせてください!せっかく入った劇団を失くしたくないですし!何もしないよりはマシですよね!」

咲也君の前向きさに私達姉妹は感動した。それに比べて支配人さんはちょっと卑屈になってて、思わずお姉ちゃんをなだめた。私達は手っ取り早く人目を集めるためにストリートACTをやること決める。

支配人さんは支配人役、お姉ちゃんは監督役、私と咲也君はオーディションを受けにきた劇団員志望役。私はなるべく顔を隠し、ストリートACTをやることにした。

「やあ、僕は劇団MANKAIカンパニーの支配人だよ。これから路上オーディションを始めるんだ。」

「では、さっそく最初の方、お名前と自己紹介をどうぞ!」

「は、はい!一番!佐久間咲也!17歳!」

やっぱり咲也君の演技は楽しそうでキラキラしてて好きだなぁ。見ていて泣きそうになってしまう。

「ありがとうございました!それではお次の方どうぞ!」

正直、演技するのはまだ怖い。人通りが少ないにしろやはりジロジロと見られるのは当たり前だ。中には笑っている者もいる。でも、今はやれることをやらなきゃ。成り切るの。私はオーディションを受けにきた夢を持った女の子だ。

『"はいっ!オーディション番号2番立花かえでです!よろしくお願い致します!"』

「志望動機はなんですかー?」

『"以前、この劇団の演劇を拝見した時に、劇団員の方々の素晴らしい演技、大道具や衣装の細やかさに惹かれ、志望させていただきました。"』

「あの子演技上手いねー。」

「本当にオーディションしてるみたい!」

『"また、寮生活での朝食、夕食がいただけるということも志望した理由です。"』

「この劇団の演劇を見た時に、一番心に残った台詞を言っていただけますか?」

『!?』

「ちょ、支配人!!」

まさかそんな質問が来るとは思わなかった。支配人さんちょっと楽しんでませんか。心に残った台詞なんて…、

「さ、どうぞ。」

『"…どうしても諦めたくなかった…っ、守りたかった…でも結局守れなかったんだよな…っ!悔しいよ、悔しくて吐きそうだ…っ、こんなに…大好きなのに…っ!!"』

瞳から流れる雫は頬を伝ってアスファルトに吸い込まれた。その直後、周りから拍手が溢れる。

「すごい!!今グッと世界に入り込んだ感じ!」

「ワンフレーズなのに涙が出てきちゃった!」

「プロの人なの!?」

『あ…、』

ダメ、拍手しないで、また思い出してしまう。あのプレッシャーと期待の目、私が背負うには重い枷。嫌だ!!

「かえで!?」

気がつけばその場から逃げるように走っていた。やめて、誰も私を見ないで。動けなくなってしまう。もがいてももがいても抜け出せない。絡みついたら離れない。そんな感覚。

『はぁっ…はぁっ…ダメ、だなぁっ…私っ…、』

「ねぇ。」

『…?』

「大丈夫?」

私に話しかけてきたのはヘッドフォンを首にかけた男の子だった。この子…さっきのストリートACTを見てくれてた子だ。演劇に興味があるのかな?

『えっ、あっ、はい…、あ、あの、もしかしてさっきストリートACT見てくれた方ですよね…?』

「!!俺のこと見てたの?」

『はい!その…、熱心に見てくれている方がいるなぁって思って…、演劇に興味とかありますか?』

「あ…、演劇…、」

『もし演劇に興味があったら劇団MANKAIカンパニーに入りませんか?』

「あんたがいるなら入る。」

『ええ!?でも私お掃除係なんですよね…劇団員じゃなくて…、』

「なら入らない。」

『あっ、でもっ、毎日います!!毎日お掃除してるので!!』

「なら入る。」

私がいればいいってこと?いやいやそんなまさか。そこまで自惚れちゃいけないよね。何はともあれ新団員さんをゲットしました。