三つの条件

『はぁ…、』

「大丈夫っすか?」

『あ、はい、だ、大丈夫です。ありがとうございます。』

今後のことを考えたらつい溜め息が出てしまった。疲れていると思われたらしく、綴君に心配されてしまう。いや、実際疲れてはいるけど。まさか左京さんがあんな条件を出してくるなんて…、




「条件って…なんですか?」

「いいか、一度しか言わないから、よく聞け。」

「1、来月中に新生春組公演を行い、千秋楽を満員にすること。2、年内にかつてと同じ4ユニット分の劇団員を集め、それぞれの公演を行い、成功させること。3、一年以内に劇場の借金を完済すること。どれか1つでも達成できなければ、問答無用でこの劇場をバーレスクに作り替える。」

「旗揚げ公演ならまだしも、年内に4回の公演なんていくらなんでも無茶です!」

『あと10ヶ月もないんですよ!?せめて…せめて丸一年待っていただけませんか…!?』

「甘ったれんじゃねぇ!!」

『っ、』

「お前、この劇団の借金がいくらか知ってんだろ。」

『っ1000万円です…、』

あまりの多額の借金に綴君や咲也君、お姉ちゃんは驚いていた。当たり前だ。ちょっとやそっとのことじゃ返せる額じゃない。

「無理ですね、諦めましょう…、」

「監督までそんなこと言わないでください…!」

「わかったか?俺は最大限の譲歩をしてやってる。これ以上は譲れん。それとも…、」

『きゃっ、』

ぐいっと手が引かれ、左京さんに腰を抱かれて密着状態になる。少し冷たい表情にゾッとした。

「予定通りお前が身体で払うか?それなら話は別だ。」

「なっ、身体でって…!かえで!」

『大丈夫、最初から劇場のためなら手足でも内臓でもあげるつもり。それで劇場を救えるなら…!』

絶対そういう意味ではない。とその場にいた誰もが思った。

『わわっ…、』

「この人に触るな。」

『真澄君…、』

真澄君が左京さんから私を引き離してくれた。真澄君と左京さんはしばらく睨み合う。間に挟まれた私はとにかく大人しくしていた。

「ふん、それから、もう一つ条件がある。」

「…なんですか?」

「お前がこの劇団の総監督とやらになること。そしてかえでが副監督になること。これが最後の条件だ。」

「それならいけます!」

「ちょっとそんな簡単に言わないでください!大体なんで私が条件に…。」

お姉ちゃんが総監督になること。それは相当の責任を負うだろう。マイナスからのスタートを切るこの劇団を仕切らなければならない。なおかつ1000万円の借金に背負って。

お姉ちゃんが承諾を渋っていると、左京さんは父を折り合いに出してきた。父は総監督でありながらも途中で投げ出して逃げた、娘のお前も所詮蛙の子は蛙だ、と。

「そういえば、お前も演劇から逃げたな。」

『っ、左京さん…知って…っ、』

「当たり前だろう。花立(はなだち)かえで…だったか?」

「え!?花立かえでってあの!?」

「えええ!」

「誰?」

「真澄君知らないの!?二年前急に有名な劇団を辞めちゃった女優さんだよ!演劇界隈では有名なんだよ!」

『っ、私のことはなんとでも言ってください。事実ですから。でも父やお姉ちゃんのことは悪く言わないで…!』

私は何を言われてもよかった。でも父やお姉ちゃんのことを悪く言われるのは我慢ならなかったのだ。

「私が逃げなかったら、ヤクザさん、さっき言ったこと撤回してくれますか。」

「さっき言ったこと?」

「お父さんは逃げ出したんじゃない。この劇団を放り出したんじゃないって。」

「お前が本当に条件を全てクリア出来たらな。」

「わかりました。」




こうしてお姉ちゃんは劇団MANKAIカンパニーの総監督となり、最後まで責任を持つことを約束し、私は、副監督となりお姉ちゃんを支えることを約束した。

今、出来ることをしよう。もう後悔するのは嫌だから。ここから始まるんだ。いや、始めるんだ。