しゃんとしろ
咲也君、真澄君、綴君が入団して数日が経った。毎日基本練習を繰り返して、旗揚げ公演に備えている。今日は新入団員を見つけにストリートACTをしに行くみたいだ。私は予定があるため一緒には行けないが、是非皆には頑張って新入団員を見つけてほしい。
『こんにちは、左京さん。』
私はどうしても左京さんと話さなきゃいけないの。この人と向き合わなきゃ。
「久しぶりだな。なんだ、劇団をほったらかしか?」
『今日はお姉ちゃんに頼んでます。』
「俺に何の用だ?まさか返済期間を延ばせなんて言うんじゃねぇだろうな。」
『そんなこと言いません。必ず約束は守ります。聞きたいことがあって来たんです。』
「聞きたいこと?」
『どうして、私を待ってくれなかったんですか?』
純粋な疑問だった。何故あの時私を待ってくれなかったのか。何故あのタイミングだったのか?
「お前には関係ねぇだろ。」
『はぐらかさないでください。確かに、今のままじゃ私が1000万返すには相当時間がかかります。もしそれが理由ならもっと早くに劇場を壊せました。でも左京さんは壊さなかった。それは少しでも私を信じてくれたからじゃなかったんですか…?』
「…、」
『バイトだって出来る限り働く時間を増やしました。安定した職場も探しました。それなのにどうして…っ、』
「…お前が自分を犠牲にしてまで、守る必要はねぇだろうが。」
『え…?』
「あのままじゃ確実にお前は身体を壊す。お前が身体を壊してまで守る価値は今の劇場にはねぇよ。」
真っ直ぐに見つめてくる瞳は真剣そのもので、嘘をついているようには思えなかった。つまり、私が身体を壊す前に、劇場を壊そうとしたってこと?
『なんで…私なんてどうだって…、劇場を守れるなら…、』
「それは、お前が演劇から逃げたことの免罪符か?」
『ちがっ…私は父の劇場を守りたくて…!』
「それが免罪符って言ってんだよ。お前が守りたいのは劇場じゃねぇ。自分だ。」
『!!』
「劇場を守ることを、お前は演劇から逃げた自分を肯定するための道具にしただけだ。」
そんなことない。私はただ守りたくて。違う、私は縋ってたんだ。MANKAIカンパニーを私がいることのできる最後の場所だと言って。ここを守るなんて理由付けて、演劇から逃げた自分が間違ってなかったのだと認めたかっただけだ。
『私っ…私どうしたら…っ、』
「もう一度演劇と向き合え。話はそれからだ。」
『向き合う…、』
「逃げんな。お前は最後まで劇団を見届けるんだろう。だったらしゃんとしろ。メソメソするな。」
この人は私の背中を押してくれているんだ。きついことを言っているようだけど、ちゃんと優しさもある。いつも前を見て歩けるように叱咤してくれてるんだ。
『左京さん…ありがとうございます。』
「礼を言われる筋合いはねぇよ。さっさと劇場に戻って春組旗揚げ公演をどう成功させるか考えろ。」
『はい!今日はお時間頂いてありがとうございました!』
戻りたい。
早くあの場所へ。
成功させたい。
新生春組旗揚げ公演を。
『左京さん!』
「あ?」
『絶対千秋楽を満員にしますからね!楽しみにしててください!』
「ふっ、ばーか…。当たり前だろ。」
左京さんの言う通り、しゃんとしなきゃ。下を向くな。前を向け。MANKAIカンパニーを守るんだ。
「昔からお前には笑顔の方が似合う…。迫田!」
「何すかアニキー!」
「行くぞ!」
「あいあいさー!」