その表情の理由は
練習はまだ不穏な空気のまま行われていた。特に綴君と真澄君の関係は悪くなっていく一方だ。真澄君は思ったことをすぐに口にしてしまう。悪気はないのだがそれが厄介だ。
ある夜、中庭でこの状況をどう打開していくか考えていた。このままどうやっても千秋楽を満員にすることは出来ない。どうしたら…、
「かえで。」
『真澄君…どうしたの?』
「え、あ…見かけたから…、」
『そうだったんだ、隣来る?』
「うん。」
真澄君はゆっくりと私の隣に座った。高校生だけど、やっぱり男の子だから大きいなぁ。隣に並ぶとその差を特に感じる。
「あんたは俺の演技見て、どう思う?」
『上手だと思うよ。セリフも覚えてるしね。』
「でもあんまり褒めてくれない。」
『真澄君は…、皆と演劇するの楽しい?』
「別に。…よくわからない。どうしたらいいのかわからない。」
『え…?』
「俺はただ、本当のことを言ってるだけ。この演劇を完璧にしたいだけ。」
真澄君は真澄君なりにこの演劇について考えているらしい。その瞳には少し迷いがあった。
「でも、あんたはそうじゃないんでしょ。俺を見て寂しそうな顔してる。」
『っ、』
「どうしたらいい。どうしたらあんたは俺を見て笑ってくれるの?」
違うよ真澄君、寂しそうな顔をしてるのは貴方だよ。このまま大切なことに気付かないと、真澄君はひとりぼっちになってしまう。演技だけが一人歩きして、そこに残るのはただ虚構だ。
「真澄!」
『綴君…、と咲也君とシトロン君も…。』
「なに。」
「明日朝練やるから、来いよ。」
『朝練やるの?』
「はい、このままじゃダメだから。上手くなりたいんです。俺、まだまだつっかえてて上手くセリフを言えないけど、絶対に上手になります!だから…、」
『咲也君、今は演技楽しい?』
「正直、自分の出来なささが悔しくてたまりません。それでも…楽しいです!」
『うん、それなら大丈夫。咲也君なら絶対上手になれる。また明日から頑張ろうね。』
「はい…!」
皆で支え合ってほしい。演劇を楽しんでほしい。特に真澄君や至さんには。演劇から逃げた私が言えることは何もないけれど、きっといつか心から演劇を楽しんでくれるよう願った。