自業自得
春組の朝練が始まり、咲也君もセリフをつっかえないように言えるようになってきた。朝練の効果があったと喜ぶ中、お姉ちゃんは不安そうな顔をしていた。その表情の理由はきっと、思った以上に次のステップに進むまで時間がかかっていること。このままだと旗揚げ公演に間に合わない。そう感じているのだ。
そんな不安を抱えていたある日、あの人はやってきた。
「おいおい、ここは幼稚園のお遊戯会場か?」
「え?」
「見てらんねぇな。」
『!!』
「どちら様ですか?ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ。」
「ああん?お前こそ誰だよ−−−って、ん?ああ、あんたが監督の娘か!ハナ垂らしてたチビがこんなにおっきくなったか!」
突然稽古場に入ってきたのは、初代春組OB鹿島雄三さんだった。支配人が現春組を見てくれるように頼んでくれたらしい。
「おら、さっさと始めな。てめぇらの一番最初の客になってやらぁ。ありがたく思えよ。と、その前に、そこの黙りこくってるお前。稽古場から出て行け。」
『!!』
「は?何言ってんの。」
「演劇に本気で向き合えねぇ中途半端なやつはいても邪魔だ。」
「ちょっと、そんな言い方って−−−、」
『大丈夫お姉ちゃん…!雄三さんの言う通りだから…ごめん、』
私は雄三さんにお辞儀をして稽古場を出た。雄三さん怒ってた。当たり前だよ。小さい頃、私に良くしてくれた。雄三さんのおかげで色々なことを学べた。それなのに私は演劇を捨てて逃げた。恩を仇で返したようなものだ。
ああ、駄目。私に泣く資格なんてない。自業自得なのに。それでも、突き放されたあの目が悲しくてたまらないの。
「かえでさん大丈夫ですかね…、」
「うざい。」
「雄三さん、どうしてあんなこと…、」
「俺に言い返せねぇようならここにいる資格はねぇ。あいつはまだ逃げてんだよ。逃げたままなら俺がここにいる間はここには立ち入らせねぇからな。おら!さっさと始めろ!」
いづみには雄三がそこまでこだわる理由がわからなかった。何かに耐えるような表情で去ったかえで。いづみはかえでが舞台に立っていた頃のことをよく知らない。故にどうすればいいかわからなかった。どんな言葉を掛けていいのか、自分には何が出来るのか。ただ、もう一度楽しそうに演じるかえでを見たいと思ったのだった。