あいつばかり

『た、殺陣?』

「そうなの、盛り上がりに欠けてたみたいだからちょっとした殺陣を入れることにしたんだけど…、」

『そういうことだったんだ…。』

この間雄三さんが突然来て春組の稽古を見てくれた。相変わらず私は追い出され稽古の様子はわからなかったが、演技は褒められたらしい。しかし盛り上がりに欠けるということで、ロミジュリのシーンで殺陣を入れることにしたみたいだ。もちろん咲也君も真澄君も初心者だ。そこに関しては雄三さんが指導してくれるみたいだが…、

『大丈夫かな…、』

「うーん、」

真澄君はコツさえ掴めば卒なくこなすから心配はいらないだろうけど、咲也君が少し心配かもしれない。咲也君も一生懸命だし、素直だ。人からの言葉をすんなりと受け入れてしまって、頑張り過ぎてしまう。それが何よりの気がかりだった。そしてその気がかりはやはり的中してしまった。

「腰を落とせって言ってんだろうが!何度も言わせんな!」

「すみません!」

稽古場からの怒号は外にも丸聞こえだった。何も出来ない自分が悔しい。それでも今入ったところで雄三さんにはすぐ追い出されてしまう。咲也君大丈夫かな。

雄三さんが帰ったのを確認し、私は稽古場へと入った。中にはくたくたになった咲也君の姿が一番に目に入った。

『咲也君大丈夫…!?』

「はぁ、はぁ、大丈夫です…。」

嘘だ、全然大丈夫じゃない。主役だから動く場面も他の役より多いし、加えて殺陣の練習はさらに負担がかかってしまう。今でも相当負担がかかってるはずだ。

『咲也君、無理だけはしないで。』

「…………はい。」

と言ったものの咲也君はやはり頑張り過ぎているらしい。夜中に練習しているところをお姉ちゃんが見つけてくれた。このままじゃ咲也君の体が壊れてしまう。やはり殺陣をやめることが一番いいかもしれない。私達は次の日の朝練で、殺陣をやめることを伝えることにした。

「皆、集まって。」

「何すか?」

「何?」

「殺陣を演出から外します。」

「…………え?」

「ああ、それがいいっすね。」

「なんで?」

殺陣を演出から外すことに対し、綴君、至さん、シトロン君は相槌をうっていたが、真澄君は納得いかない、という表情をみせた。

『咲也君に負担がかかりすぎてるの。これ以上無理したら体壊して倒れちゃったら、元も子もないでしょう?』

「大丈夫です!俺、まだやれますから!」

『咲也君…、ごめんね…、やっぱり咲也君にはこれ以上無理してほしくない。』

「…っ、………ロミオ役。」

『え…?』

「ロミオ役を誰かと交換すればいい。そうすれば殺陣もマシになるだろ。」

『っ真澄く、』

「…嫌だ。嫌だ!絶対に嫌だ!ロミオ役は俺の役だ!」

咲也君の大きな声に心臓が跳ねた。あの咲也君がこんな大きな声を出すのは初めて聞いた。咲也君の表情は何処か悲しげで、見ていて痛々しかった。

「おい、落ち着けよ、咲也。」

「あ、す、すみません。でも、ロミオ役を交代するなんて絶対に嫌です。」

『交代しないよ。大丈夫、ロミオ役は咲也君だよ。』

咲也君がここまでロミオ役にこだわるのは何故だろうか。何か思い入れがあるのかな。なんて思っていると今度は真澄君が急に稽古場から出て行ってしまった。

「真澄!?」

「真澄君…、」

「ごめんかえで、真澄君お願いしていい!?」

『う、うん!追いかけてくる!』

私も稽古場から急いで出て、真澄君を追った。真澄君は走っているわけでもないのに、すでに遠いところにいて、小走りで追いかけて彼の腕を掴んだ。

『真澄君っ!なんで…、』

「…あんた、あいつのことばっかり。」

『え…?』

「俺を見て。お願いだから。あいつばっかり見ないで。」

まるで子供のように泣きそうな顔の真澄君の手をぎゅっと握った。あいつとは咲也君のことだろうか。確かにここ最近咲也君が心配で、声をかけることが多かったかもしれない。

『ちゃんと見てるよ。稽古前に台詞呟いてたり、休憩中に殺陣のステップ練習してたり、ちゃんと努力してるところ。』

「!!」

『真澄君は何事もそつなくこなすから、そういうの埋もれがちだけど、真澄君の努力があってこそ色んなことが出来るんだよね。』

「全然…見てないかと思ってた。」

『こう見えて副監督なので。』

えへん、と胸を張ると、そのまま体は前のめりに傾いて温もりに包まれた。気がつけば真澄君にぎゅっと抱きしめられて、顔に熱が集中した。待って真澄君落ち着いて。

「ほんと敵わない。」

『ま、真澄君、これは…恥ずかしい、です。』

「!!照れてる顔可愛い、世界一可愛い。」

そしてここからまた真澄君を引き剥がすのがとっっっても大変で苦労した。そしてここまで熱烈なスキンシップは慣れていないので、遠慮したい。最近の若い子はすごいなほんと。

『戻りました。』

真澄君を引き剥がしたはいいものの、手だけはずっと離れなかったので、手を繋ぎながら稽古場に戻った。皆の視線が確実に私達の手に落とされていて、恥ずかしかった。

「な、仲良しだね…?」

「さっきプロポーズされたから。今すぐかえでと結婚する。」

『そうそう…ってしてないよ!?』

「ちっ、」

危うく真実が捻じ曲げられて伝えられるところだった。若いって怖い。