ここにいていいんだよ
『よし、見回り完了。』
夜は毎日、支配人、お姉ちゃん、私でローテーションしながら、夜11時くらいに寮を見回りをしている。見回りと言っても倉庫の鍵や門の鍵は閉まっているか等を見るだけだが。今日の見回りも終え、部屋へと戻ろうとした時、中庭で何か影が動いたような気がした。
『…?不審者…?』
不審者だったら皆が危険だ。私はこっそりと中庭へと近づき、影の正体を確認しようとした。しかし、近づいてみると影の正体は不審者ではなく咲也君だった。
『咲也君…?』
「わっ!?あ、かえでさん…!どうしたんですかこんな夜に?」
『私は見回りだよ。咲也君こそどうしたの?まさか、練習とかじゃ…、』
「してないです!眠れなくて散歩してました。」
寮のわずかな光から、咲也君の表情が暗いことが嫌でもわかってしまう。やはり殺陣のことを気にしているのだろうか。
『ずっと殺陣のこと考えてたの?』
「それだけじゃなくて、色々考えちゃって。…俺、頑張ってうまくいかなくて、いつも失敗ばかりなんです。やっぱり、またダメなのかなって思ったら、怖くなっちゃって。」
『ダメじゃない、少しずつ咲也君は成長してるよ。稽古で出来なかったこともちゃんと出来るようになってる。今回の殺陣は時間が少なかっただけだよ。』
「違うんです。そうじゃないんです。」
『え…?』
「俺、ずっと親戚の家にお世話になってるって話しましたよね?」
『うん。』
「いつも、引っ越した最初は、今度こそ仲良くやろう、本当の家族みたいになれるよう打ち解けようって頑張るんです。でも、いつもうまくいかなくて……結局別の親戚のところに預けられちゃうんです。きっと俺が何をやってもダメだから…。」
咲也君の話を聞いて、昔のことを思い出してしまった。少しだけ、似てたんだ。私もあそこでは家族のようにはなれなかった。毎日毎日、針のような視線が突き刺さって、息苦しくて。
『それは咲也君のせいじゃない。人間関係だって、必ず上手くいくわけじゃないから。どちらか一方が悪いんじゃなくて、仕方がないことなんだよ。だから、自分を追い詰めなくていいんだよ、咲也君。』
「かえでさん…ありがとうございます。やっとこの劇団でロミオ役っていう居場所をもらえて、本当に嬉しかった。俺も劇団の一員として認めてもらえた気がして…。だから、ロミオ役が交代するかもって思ったら、怖くてしょうがありませんでした。」
『咲也君はどうしてそんなに演劇が好きになったの?』
私がそう質問すると、咲也君はキラキラとした瞳で答えてくれた。咲也君が小学生の時に見た舞台がきっかけらしい。その舞台の途中で学校の隣の施設で火事があり、その舞台は中断になった。皆がパニックになりかけてる中で船長役の人が、誘導してくれたという。そしてその中でも船長役の人は演技をし続けたみたいだ。
『Tne…show must go…on…ショーは終わらない…。』
「はい。あとでそういうことわざがあるって知って、感動しました。ショーは何があっても終わらない、続けなきゃいけない。あの時見た役者さんみたいに、自分だけの、自信を持って演じ続けられる役が、居場所が欲しかったんです。」
『そっか…、私ね、初めて咲也君を見た時から、咲也君の演技が大好きなの。キラキラしてて、心が惹かれた。ああ、演じるってこういうことなんだって思った。ロミオ役は咲也君にしか出来ないよ。咲也君がいて、初めてロミオが完成するの。皆そう思ってるよ、咲也君はここに必要だよ。咲也君じゃなきゃダメなんだよ。』
「本当に…?俺、ずっとここにいていいんですか?」
『うん。ここにいてほしい。』
「っ、ありがとうございます…!俺、頑張ります!!」
『殺陣については、気持ちの整理は出来た?』
「…すみません、まだ。やっぱりやってみたいです。」
『…うん、じゃあもう少しねばってみよっか。私もできることはなんでもするからね。』
「!!…はい!」
そうだよ、咲也君は私とは違う。自分と重ねちゃだめだ。咲也君は私みたいにはならない。そう、絶対、私みたいにならないように守らなきゃ。