4枚のチケット

「いつもあいつが主演だよな。」

「先輩差し置いて主演ってどんな気持ちだろうな。」

「顔がいいだけでしょ。」

「主宰に身体売ってるんじゃないの?」

「早くいなくなればいいのに。」

『(どうして…!私はただ演じることが好きなだけなのに…っ、)』


『っ、』

ハッと目を覚ませば、カーテンの隙間からすでに朝陽が差し込んでいた。何故かひんやりとする自身の体に触れると、肌はしっとりと湿っていて汗をかいたのだと理解した。

「早くいなくなればいいのに。」

『うっ…、』

朝から吐き気が襲う。久しぶりに嫌な夢見てしまったようだ。昔のことを思い出してしまった。私のもう一つの劇団を辞めた理由。私の弱さ、人間の汚さ。こんなこと誰も知らなくていい。きっと、知ったら皆私から離れていってしまう。ここだけは失いたくないなんて、子供みたいな我が儘を許してください。

***


『真澄君が…咲也君に教えてる…?』

「マスミがデレたヨ!今日は赤飯ネ。」

「別にそんなんじゃない。」

いつも通り朝練のため稽古場に向かえば、すでに真澄君、咲也君、シトロン君がいて驚いた。しかし、驚いたのはすでに稽古場にいたことではなく、真澄君が咲也君に殺陣を教えているということ。しかも、ちゃんと咲也君のペースに合わせて。

「はよー。」

「皆早いね。」

『おはよう綴君。おはようございます至さん。』

「おはようございますかえでさん。どうしたんすかあの二人。いい感じですね。」

「昨日特殊イベントでもあったの。フラグ立ったとか?」

「ワタシ、隠し選択肢発見したネ。」

「マジか。キタコレ。攻略wikiに書いといて。」

『特殊イベ…?隠し選択肢?』

「そこ、オタク専門用語で話さない。」

シトロン君と至さんが言っていることはよくわからなかったが、とにかくこのままいけばうまくいくはずだ。どうして真澄君は突然咲也君に教え始めたのかはわからないけど、頑張って欲しい。

「かえでさん。今日は顔色が悪いね。」

『っ、そうですか……?』

「うん、体調悪いの?」

『大丈夫ですよ。』

嫌な夢見て体調が悪いなんて絶対言えない。ましてや皆が頑張ってるこの時期に休んでられない。副監督ならちゃんと身体の自己管理もしなきゃいけないのに。

「俺が回復系の魔法使えたらいいのに。」

「オー!イタル、魔道士希望ネ。」

「今だけね。」

『ありがとうございます至さん。』

「無理だけはしないように。」

『はい。』

至さんは私の頭をポンポン、と撫でてくれた。その大きな手があまりにも温かくて、優しいものだから目の奥がじんとする。私はまた人に甘えてしまうんだ。

***


『わっ、皆すごくかっこいい!瑠璃川君すごいね!』

「まぁね。」

ついに瑠璃川君が衣装を作り上げてきてくれた。出来栄えはもちろん完璧で、キラキラと衣装が輝いて見えた。そして、衣装を着る皆はさらにキラキラしてて本番が楽しみになった。

「かえで、どう?」

『真澄君かっこいいよ!とっても似合ってる!』

「!…ん。」

ジュリアス役の真澄君はなんというかとっても似合っている。着られている感がなくてしっくりきてる。

「うーん、ちょっと腰回りが、きつめかな。」

「痩せろ。」

「サイズ合わせとは。」

『至さんは王子様みたいですね。絵本で出てきそうです。』

「ははっ…姫がお望みならお迎えに上がりましょうか?」

『ひえっ、あ、う、』

「冗談だよ。」

『も、もー!至さん!』

冗談っぽく笑う至さんは前よりもずっといい表情をしていた。つられてこっちまで笑いたくなるような、そんな笑顔。

「いよいよ本番が近づいていたって実感しますね〜!」

「それで、客集めは順調なの?」

「え!?」

その瑠璃川君の一言で支配人は固まった。待って、そんなまさか、嫌な予感がする。

「え?じゃなくて。もうチケット販売始めてるんでしょ?」

「あ、あー。そういえば、そうですね〜。」

なんとも歯切れの悪い返事に、瑠璃川君は痺れを切らして質問した。一体何枚チケットが売れたのだと。すると支配人はゆっくりと手で4、と作りその手をそっとあげた。

『40…?』

「4枚です。」

「4枚!?」

くらりと意識が遠のく感覚。嘘でしょ、4枚?あの席をいっぱいにしなきゃいけないのに、4枚?信じられない。まずい、これはまずい状況だ。何としてでもあの席を満席にしないと。

「あと三週間だけど。」

「やばげ。」

「旗揚げ公演にしてさよなら公演ネ。」

「シャレになりません!」

旗揚げ公演をさよなら公演にするなんて絶対に嫌だ。こんな重大なことを黙っていた支配人に憤りを感じたが、私も確認しなかったのが悪い。今度からはちゃんと確認しよう。今度があればの話だが。

「支配人、サイトのPV数はどれくらい?」

「え!?ペー?ビュー?」

「閲覧者数のこと。もっとサイト見られるように拡散しよ。俺のアカウントでも紹介するわ。五万人くらいに見られてるし。」

「すごいっすね!?」

「宣伝用にブログとか開設してもいいかも。劇団員が書けば親近感持ってもらえるし。」

「それじゃあサイトの方は至さんお願いします。」

『お願いします!』

「任せて。」

『私達は街頭でとにかくフライヤーを配りましょう!』

「はい!」

「了解っす」

「がんばるネ。」

自分達が出来ることを今やろう。まずはフライヤーを配って、ストリートACTとかもいいかな。なるべくお客さんの目にとまるようにして。

「…………一枚ちょうだい。」

「え?」

「これで5枚になるでしょ。せっかく作った衣装、たくさんの人に見てもらいたいし、宣伝する。」

『ありがとう瑠璃川君!』

「別に…あんたのためじゃない。」

ぶっきらぼうに答える瑠璃川君のその言葉には優しさを感じた。そうだ、せっかく瑠璃川君にも素晴らしい衣装を作ってもらったんだ。頑張らなきゃ。

練習後、すぐに至さんがブログを開設してくれたみたいでその行動力に感心した。自己紹介などが書いてあったが、真澄君とシトロン君が書いたものが一番心配だったので、翌日もう少しどうにかしてほしいと頼んだのだった。