辿る平行線
『はぁ、どうしようこれ…。』
この間丞兄さんからもらった連絡先に私はまだ連絡出来ずにいた。正直、今更連絡したところで遅いのだ。どんな理由であれ私が劇団を捨てたのはまぎれもない事実。お世話になったお礼すら言わずに出て行ってしまった。丞兄さんもちょっと怒ってたし…。
『中途半端だなぁ自分…、ほんと…嫌になる…。わぷっ、』
「おい、前を向いて歩け。」
『すみません…って左京さん?どうしたんですか?』
私がぶつかってしまったのは左京さんだった。どうしてここにいるのだろうか。
「あいつらの様子を見てきただけだ。」
『左京さんはなんだかんだ言いつつ面倒見がいいですよね。…冗談です。』
とても怖い顔で睨まれたのでとりあえず誤魔化しておいた。でも左京さんは優しい人だからきっと様子を見にきてくれたんだと思う。
「お前、何かあったか。」
『えっ、』
「顔に書いてある。」
『……前の、劇団の人に、会っちゃって……。』
「GOD座か。」
『はい…。私、怖くなっちゃったんです。またあの場所に連れ戻されるんじゃないかって。でも、お世話になった人も沢山いて…っ、』
まだ私はあの日から進めない。進む勇気がない臆病者なんだ。
「お前がどんな理由で劇団を抜けたか知らねぇが、世話になったなら恩を返すのが仁義だろう。」
『はい…。』
「…だが、それは今じゃない。」
『!!』
「まだ進めねぇなら進まなくていい。だが後ろは振り向くな。前だけ向いてろ。それが今お前の出来ることだろう。」
どうしてこの人の言葉はいつも温かいのだろう。劇場で出会ったあの日からずっと救われてる。甘えてはいけないとわかっていても心の何処かでこの人の言葉を求めている。
『ありがとうございます左京さん。』
「マシな面になったな。」
彼はフッと笑ってその場を後にした。そうだ、今はうじうじしている場合ではない。私はこの劇団のために出来ることをしなければ。私はギュッと拳を握って稽古場へと向かった。
『おはようございます!遅れてすみません!』
「おつピコー!」
『きゃっ!』
勢いよく稽古場のドアを開け、挨拶をすると突然後ろから陽気な声が聞こえた。思いもよらない声に驚き心臓が跳ねる。
「あー!ごめんねかえでちゃん!驚かせちゃった?」
『みっ、三好さん!?』
「あれ?三好さんどうしたんすか?」
「うざい、かえでから離れろ。」
「めんごめんごー!えっと、陣中見舞いっつーの?どんな感じかなーと思ってさー。」
久しぶりに会った三好さんは相変わらずテンションが高かった。ちらりと三好さんを見れば彼はそんな視線に気づいたのか優しく微笑んだ。
「そうなんすか…。」
「あれ?なんか、空気重くね?」
「チケットが思うように売れなくて、どうやって宣伝しようか考えてて…、」
「マジで?売れないと、ここつぶれんでしょ?激ヤバじゃん。」
三好さんの言う通りだ。一席でも埋まらなかったらあのショベルカーの餌食になってしまう。看板をたたんでお終いだ。
「そんな状況なんで、三好さんの相手してる暇はーー、」
「あ!良いこと思いついたわ!テレビ!テレビ出ればいいじゃん。」
「テレビ?そんな簡単に出させてもらえないんじゃない?」
『知名度も低いし…、難しいんじゃないかなぁ。』
「あ!全然!オレ、口きくんで!」
『えええ、』
「テレビ局に知り合いがいるの…?」
「ちょっと連絡してくるわ!んじゃ、頑張って!」
そう言って三好さんは嵐のように去っていった。本当にテレビに出ることが出来るのだろうか。もし出来るならここの知名度は今よりも上がる。そしたらチケットの売れ行きも良くなるかもしれない。
「うーん、本当にテレビで宣伝できればいいんだけどね。」
***
『ただいま戻りましたー。』
「おかえりかえで。」
『ただいま真澄君。』
22時にバイトが終わり、寮へと帰宅すると真澄君が一番に出迎えてくれた。談話室の方へと進むと少し疲れた顔をしたお姉ちゃんの姿が目に入る。
『ただいまお姉ちゃん。なんかいつもより疲れてる?稽古見てもらってごめんね。』
「今日…テレビが…、」
『テレビ…………?何の話……って、え!!テレビ!?本当に来たの!?』
私がそう問いかけるとお姉ちゃんは頷いた。まさか本当にテレビに出られるとは。でもテレビが来るなんて聞いてなかったけどなぁ。
「支配人が伝え忘れてたみたいで。突然来たからびっくりしちゃった。」
『宣伝は出来た…?』
「それはバッチリ。ただ心の準備も出来てなかったから緊張しちゃって。至さんは営業モードだったよ。」
『さすがだね至さん。』
「俺も沢山宣伝した。」
『ありがとう真澄君。じゃあテレビ楽しみにしてるね。』
「…!ん、」
少し嬉しそうに顔を綻ばせた真澄君の横で首を傾げてたお姉ちゃんには気づかないフリをしよう。うん、きっと真澄君はしっかり宣伝してくれたはず。
後日テレビを見てカチカチに緊張してる咲也君の隣で、スーパードライな真澄君が淡々と話している姿を見た私は、その日真澄君にデコピンをしたのは言うまでもない。