君の芝居じゃなきゃダメなんだ

『ただいま戻りました。』

「あ、おかえりなさい!」

「おかえりダヨ。」

「おかえり。」

「無事にーーって感じでもないっすね。」

『ちょっと、あの、色々あって…、』

女の子達の一件があった後、私と真澄君は寮へと戻ってきた。咲也君、シトロン君、綴君、至さん、お姉ちゃんが出迎えてくれる。

「あれ、かえでさん、ほっぺたちょっと赤くなってない?」

『あ、いや、これは…、』

「いい加減何があったのか話せ。」

「…、」

『私部屋に戻ります!』

私がいない方が話しやすいかもしれない。私は部屋に戻り、ベッドへと飛び込んだ。もしこのまま真澄君と仲直り出来なかったらどうしよう。

『嫌だなぁ。』

「何が嫌なの?」

『お姉ちゃん…、』

「はい、これで冷やして。」

『ありがとう。…このまま真澄君と仲直り出来ないのは嫌だなぁって。』

「真澄君もそう思ってるよ。二人共不器用なだけ。ちゃんと話せば仲直り出来るよ。」

お姉ちゃんの言葉に泣きそうになった。くよくよしてる場合じゃない。ちゃんと仲直りしなきゃ。そう思った矢先に部屋のドアがノックされた。お姉ちゃんがドアを開けるとそこには真澄君の姿が。そしてその後ろには咲也君の姿もあった。お姉ちゃんはそのまま出て行き、真澄君と咲也君と私が部屋に残される。

「…。」

「ほら、真澄君!」

「さっきは、ごめん。」

『え…?』

「叩いたことと、無視したこと…。」

『それは気にしてないよ…!あれは私のために怒ってくれたんだよね…?』

「怒ってない…?」

『うん、怒ってないよ。それより、私…真澄君のこと傷つけちゃって…。私のために芝居をするのはダメってこと、気にしてたよね…。』

「気にしてるっていうか、わかんなくなった。」

『わからなくなった?』

「どうすればいいのか。何のために芝居をすればいいのか。」

『私は真澄君に演劇を好きになって欲しかった。私以外に演劇を続ける理由を見つけて欲しかったの。だから、真澄君の特別練習メニューは、好きな芝居を見つける、だったでしょう?そのためだったんだ。真澄君の芝居、本当に良くなっていったから好きな芝居見つかったのかなって思ったんだけど…、』

「好きな芝居なら、元々ある。」

『そうなの?』

「あんたの芝居。」

『私の…?』

「ビロードウェイでストリートACTしてた、かえでの芝居が好きだから、同じように頑張っただけ。」

『私の芝居なんて…誇れるようなものじゃ…、』

「関係ない。俺はかえでの芝居を見て、同じようにやりたいと思った。あんたがいつも辛そうに俺らの芝居を見てるのは知ってる。だから、いつかあんたを俺の芝居で笑顔にさせたい。」

『真澄君…、』

真澄君がこんな風に考えてくれてたなんて知らなかった。空っぽで自分にはもう何もないと思ってたのに。まだ私の芝居を好きだと言ってくれる人がいる。それだけで私の心は十分に満たされる。

『ありがとう、真澄君…。』

「何が?」

『なんでもないの。好きな芝居があってくれて良かった。』

「……好き。」

『うん、私の芝居を好きになってくれてーーーって、真澄君!?』

なんだか真澄君の顔がどんどん近くなっている気がする。というか体の距離も縮まっている気がするけど。

「好き…、」

『ま、真澄君っ、待っ、』

「わー!真澄君、ダメだよ!ストップ!そういうのは相手の合意を得てからじゃないと!」

「咲也、邪魔。」

「だって、無理やりやったら犯罪ーー、ってあれ?今俺のこと、名前で呼んだ?」

『あ、そういえば…。』

「初めて名前で呼ばれた……!」

初めて名前を呼ばれたことに喜ぶ咲也君。真澄君は少しだけうざそうな顔をしていたけど、嫌そうではなかった。こうして見ると、真澄君は初めの頃より皆と打ち解けあってる。それは絶対に芝居にいい影響も与える。少しずつでいいの。真澄君がもっと皆と仲良くなって、純粋に芝居を好きになってくれますように。